先進国では、農業からの環境負荷を軽減するために、肥料や農薬を使わない低投入持続型農業が提唱されている。しかし、これらの栽培方法では、単位面積当たりの穀物生産量を現在以上に増大させることは難しい。そこで、低投入持続型農業での増収の実現に向けて、植物共生微生物の力を利用する試みがなされている。すでに商品開発されている製品の中には、「イネファイター(前川製作所)」という、Azospirillum属細菌を含む微生物資材がある。イネファイターを施用した圃場の水稲は穂数が多くなり、多収となった例が報告されている。この穂数を増やす接種効果には、品種間差異も認められている。さらには、植物の免疫力も高め、いもち病等に対する抵抗性を向上させるという報告もある。一見するといいことずくめのように聞こえるが、微生物資材の効果は、化成肥料に比べて不安定であり、効果を発揮する条件(土壌や気象等)が限られる傾向にある。農業現場で、植物共生微生物の力を利用するには、植物を含めた環境と微生物の相互作用を解明していく必要がある。 申請者は、イネの植物共生細菌に着目し、共生細菌群集に影響を与える要因を明らかにしてきた。イネ共生細菌群集は部位によって異なっており、根では、窒素施肥の影響が大きく、葉や茎では品種の違いが影響を及ぼしていることが分かった。次の課題は、葉や茎で影響を受けている共生細菌種を特定し、それを制御する宿主側の機構を明らかにすることである。
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