研究課題/領域番号 |
15KT0119
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
弓削 こずえ 佐賀大学, 農学部, 准教授 (70341287)
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研究分担者 |
金山 素平 岩手大学, 農学部, 准教授 (60398104)
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研究期間 (年度) |
2015-07-10 – 2018-03-31
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キーワード | 農業水利施設 / クリーク / 多面的機能 / 水質 / 生態系 / 防災 |
研究実績の概要 |
本研究では,有明海沿岸の低平地に広く分布するクリークの洪水調節や生態系保全などの公益的機能を最大限発揮させるため,自然由来の材料を用いたクリーク護岸工法を開発し,自然融和型の水循環システムを構築することを目的とする.さらには,整備後のクリークを住民が維持管理するための制度を確立し,クリークの管理を契機として地域コミュニティを再生させることを目指す. 今年度は,まず,合同フィールド調査を実施して,筑後川の両岸に広がるクリークの分布や劣化状況について踏査し,基礎的なサンプルの採取や基礎データの収集を行った. 地盤改良ユニットにおいては,現状のクリーク法面の強度特性を明らかにするとともに,種々の自然由来の護岸材の根系による土壌の緊縛効果を定量的に評価した.土壌のせん断強度および粘着力などの力学的特性を解明し,根系の緊縛効果による強度増加について定量的に評価した. 環境評価ユニットでは,自然由来の材料を用いた護岸によって,クリーク周辺の生態系および水質がどのように変化するかを解明することを目的とし,ホウライチクを用いた水槽実験を行った.水槽内の全窒素と全リンを連続測定し,ホウライチクの栄養塩類吸収量を定量評価するとともに,これを予測するためのロジスティックモデルを構築した.また,試験的に自然由来の護岸材を用いて整備したクリークでフィールド調査を行った結果,従来の工法と比較するとクリークの流動特性が大きく変化し,水質や生態系に影響を及ぼすことが明らかになった. 管理システムユニットにおいては,実際のクリークの整備事業が行われている筑後川下流右岸地区において,クリークの管理母体である組織の水管理スキームについて調査を行った.また,クリークの法面の管理実態と,地域住民の取り組みについて聞き取り調査によって明らかにしした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の採択が7月に決定し,研究着手が年度の後半になったが,これまでに予備調査を行っており,現場との連携が万全であったため,直ちに調査を開始することができた.採択決定後,合同フィールド調査を実施して,クリーク法面の劣化状況を明らかにするとともに,現地で採取したサンプルを用いて,クリーク法面の強度特性について定量的に評価することができた.複数の自然由来の護岸材が法面の強度に及ぼす影響についても土質実験によってもデータを得ることができた. また,フィールド調査によって水質や生態系についての基礎データを収集することができた.特に,水質については,採択前から学内で水槽試験を実施することで,自然由来の護岸材料が水質に及ぼす影響を解明することができた.また,フィールド調査によって,クリークの水質や生態系には,クリークの流動性が大きく関与することを明らかにすることができた. さらには,筑後川下流右岸地区において,地元の行政機関やクリークの整備を担当する技術者を対象に聞き取り調査を行うことにより,住民主体のクリークの維持管理体制の現状を把握することができた.
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今後の研究の推進方策 |
今年度も合同フィールド調査を実施し,基礎的なサンプルの収集を行うとともに,クリークの整備や水管理に携わる技術者への聞き取りを行い,データの蓄積に努める. 地盤改良ユニットにおいては,さらなるサンプルの採取を行ってクリークの法面の強度特性についてデータの蓄積を図る.これに加え,様々な種類の自然由来の護岸材を用いて土質実験を行い,クリーク法面の強度向上への寄与を定量的に評価し,現場への適用について検討する. 環境評価ユニットについては,前年度の調査で,自然由来の護岸材による水質や生態系に及ぼす影響について学内実験やフィールド調査によって明らかにしたが,引き続き精度の良いデータを蓄積し,前年度に構築したモデルの精度向上を目指す.また,前年度の調査によって,自然由来の護岸材によってクリークの流動特性が変化し,これが水質や生態系などの環境に影響を及ぼすことが明らかになった.そこで,環境評価ユニットでは,水質や生態系などに加え,自然由来の護岸材を用いて整備されたクリークの流動特性を解明することも課題の1つとして取り組むこととし,環境水理学に造詣の深い専門家を分担者として加え,研究を遂行する予定である. 管理システムユニットについては,今年度,聞き取り調査で明らかにした水管理や法面のおじ管理の実態を基に,さらなるフィールド調査を行って地域コミュニティの構造を明らかにするとともに,クリークの管理体制の特徴や課題を抽出することを目指す.調査で得た結果を用いて,クリーク法面の強度や水辺環境を保全するための地域住民主体の管理体制の方向性について検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は,複数の植物を栽培して自然由来の護岸材として用い,根系の緊縛効果による土壌の強度特性の評価を行う予定であった.本申請課題の採択の決定が7月であり,予算執行が9月以降となったが,研究対象としていた植物のうち,一部については春季~夏季が生育期間であった.そのため,今年度はこれを用いた実験をやむを得ず見送り,秋季~冬季の実験ならびにフィールド調査を重点的に行うこととした.春季~夏季のデータを確保するため,助成金の一部を繰り越して,今年度実施予定であった春季~夏季の実験を次年度に行うこととした.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は,今年度に実施することができなかった春季~夏季に生育する植物を用いた実験に充てる予定である.これらの植物根の緊縛効果による土壌の強度特性を評価する実験を行って,護岸材としての適用性を明らかにする.今年度繰り越した助成金については,春季~夏季の植物の栽培に要する農業用資材および土質試験用の消耗品に充てる予定である. 翌年度分として請求した助成金については,当初予定していた研究を実施するための消耗品,調査旅費,成果発表などの経費に充てる.具体的には,クリークの形状および通水特性を考慮した護岸工法の具体的な構造を検討し,自然由来の護岸材による生物多様性の向上および水質の改善効果を広範囲に波及させるため,これらの評価を広域的に行う.さらには,地元住民主体の管理体制の課題を抽出する予定である.
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