研究課題/領域番号 |
15KT0120
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
中川 啓 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 教授 (90315135)
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研究分担者 |
渡辺 貴史 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 教授 (50435468)
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研究期間 (年度) |
2015-07-10 – 2018-03-31
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キーワード | 硝酸性窒素 / 地下水汚染 / 窒素負荷ポテンシャル / GIS(地理情報システム) |
研究実績の概要 |
本研究は、理工学的視点と社会科学的視点の両面から取り組むソシオ・ハイドロロジー (Socio-Hydrology, 社会水文学)により、地下水汚染の改善と農畜産業の振興の両立を志向する改善策を立案することを目指し、汚染の初動期から現在に至る地下水汚染の推移の把握とともに、それに対する人々の意識と行動を明らかにすることを目的としている。島原半島にある地方自治体のなかでも、特に地下水汚染が深刻である島原市を対象として、汚染の時空間構造の解明(課題I)と,地下水への意識と行動の解明(課題II)に取り組む。 課題Iでは、昨年度(平成28年度)は、島原半島における硝酸性窒素の地下水汚染の原因となる窒素供給量に着目し、その変化量がどのような要因によって影響を受けているかを明らかにした。特に、農業、家畜、生活排水の3つの部門に由来する窒素供給量について、窒素強度、構造変化、規模変化の要因に分解を行った。その結果、2005年度から2010年度における窒素供給量の変化は家畜頭数の上昇によってもたらされている一方で、2010年から2013年にかけての大幅な窒素供給量の減少は作付面積及び家畜頭数の減少に加えて、作付け対象の品種が栽培過程で窒素供給量が少ないものへ移行する構造変化要因も貢献していることが明らかとなった。 課題Ⅱでは、地下水の硝酸性窒素濃度の推移と地下水利用に係る主体の行動の対応関係を把握した。環境基準値を超過したのは、2001年である。それに対して市議会では、1998年以前は主に水量に係る発言しかみられなかった。以降は、毎年水質に関する発言がみられ、発言数が最も多くなったのは環境基準値を超過した4年後の2005年である。行政は、長崎県が同年に島原半島窒素負荷低減対策会議を設置した。これらの結果は、地下水汚染の発生と地域住民の認識には時間的ズレが生じることを示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題Iについては、島原半島における硝酸性窒素の地下水汚染の原因となる窒素供給量に着目し、その変化量がどのような要因によって影響を受けているかを明らかにすることができ、その成果を国際誌に公表することができた。また課題IIについては、地下水の硝酸性窒素濃度の推移と地下水利用に係る主体の行動の対応関係について把握できた。以上より、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
課題Iについては、地下水のサンプリングを継続し、地下水水質データの蓄積をはかる。さらに河川水質も測定し、表流水と地下水の関係性についても明らかにし、住民や行政へ提示するデータの取得と整理に努める。また課題IIについては、地下水汚染に対する地域住民の認識と行動に係るヒアリング・アンケート票を設計し、調査を実施しそのデータを解析することを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に研究実施期間が短かったことから、課題Iの地下水サンプリングと分析の他は、資料および情報収集が中心となり、繰越が生じた。昨年度(平成28年度)には、観測・分析機器の更新・追加が見込まれていたが、今年度に持ち越す形となり、また課題IIにおける調査活動が多少遅れており、さらに繰越が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度が最終年度となり、課題I、課題IIとも研究活動が活発化するため、観測・分析機器の更新・追加や成果発表のための国内外への旅費など、繰越額をあわせて有効に活用することに努めたい。
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