研究課題/領域番号 |
15KT0121
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
鷲津 明由 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (60222874)
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研究期間 (年度) |
2015-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | スマートフード / 産業連関分析 / スマートアグリ / 情報通信技術 / ユニットストラクチュア / マネジメントシステム |
研究実績の概要 |
温暖化ガス削減目標の達成,少子高齢化に対応する社会の変革などへの処方箋として注目されているのが情報通信技術を活用した「スマート化」である。スマート化した社会(スマート社会)では,情報通信技術が(a)社会内部の管理運営を効率的にマネジメントすることによって無駄を徹底的に排除し,(b)これまでとは異なる次元の社会の構成要素間のマッチングを生み出して新たなサービス産業や価値を創出する。今年度の研究では,情報通信技術のもたらすこのようなスマート化が,食料関連産業・農業にもたらす影響を,産業連関分析によって評価した。具体的には,2つのスマートフードシステムについて実例を調査し,それらについての産業連関分析を行った。取り上げたスマートフードシステムの1つは,大手の外食企業のシステム事例である。その企業は都市圏を中心にレストランチェーンを大規模に展開しており,食材の仕入れ・下ごしらえと配送を,いくつかの基幹工場で一括して行っている。またもう1つのシステムは,スマートアグリの事例である。ハウスでのトマトやキュウリなどの養液土耕栽培を管理するクラウドシステムで,生産者の労力の軽減と生産物の品質向上に顕著な効果を上げている。これらのシステムを産業連関分析するために,本研究では,情報財・サービス部門を再定義し,それら財・サービスを利用する部門としてのマネジメント部門を新たに定義した。それらの部門は現状では,それが属している本体部門に埋没しているので,それらを分離別掲し,経済活動部門として明確化するための手法開発を行う必要があった。そのようにして作成した「スマートフードシステム分析用産業連関表」を用いて,スマートフード部門のユニットストラクチュア(構造的生産関数)を確認した。その結果,サービス部門に存在する三角化構造が明確化され,スマート化が新たな経済循環構造を引き起こすことが実証的に示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スマートフードシステムの分析を通じて,サービス部門に存在する三角化構造が明確化され,スマート化が新たな経済循環構造を引き起こすことを実証的に示すことができたのは大きな成果であった。現在,この成果は,情報通信技術がもたらす社会的効果を論ずるための,国際的な学術誌(Telecommunications Policy)に投稿中である。また2回の学会発表(環太平洋産業連関分析学会第28回(2017年度)大会,第13回日本LCA学会研究発表会)を行った。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度は,スマートフードシステムの産業連関効果分析を中心に研究を進め,結果をほぼまとめることができた。学会発表を通じて,フロアから,スマート化がフードロスの解消にも大きく貢献するのではないかという指摘が得られ,これについては,2017年度の成果をさらに拡張する余地があると考えられる。フードロス解消の評価については,廃棄物問題や,バイオマスエネルギーの有効利用など,本研究の範囲を超える視点からの評価も重要と思われるため,チャレンジングな課題ではあるが,将来の新たな研究展開も見据え,2018年度はこの問題に取り組みたいと考えている。また,食MAPの結果分析については,これまでに,各世帯のデモグラフィック情報,パーソナリティ情報(その世帯の市販品への抵抗のあるなし,料理好きかどうか,品数を重要視するかどうか,計画的な買い物をしているかどうか,などの質問への回答状況)を,各世帯,朝・昼・夕食別,食卓の豊かさを示す指標(食材数とメニュー数の積によって計測),および食卓の便利さを示す指標(知食材ごとに食卓への近接度(調理品であるほど食卓近接度が近いとする)を定義し,各食卓1材料当たりの平均近接度によって計測)との関連で分析するとの整理を行っている。両指標は,本質的に代替的な性質を持つ(近接度の高い加工食品を利用すると,食材数とメニュー数の積は小さくなる)が,両指標の代替曲線の上方シフトによって食卓の質が向上することなどが判明しているので,2018年度はこれらの成果を国際的な学術誌に投稿することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度の成果公表に向けて経費の節減に努めたため
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