研究課題/領域番号 |
15KT0121
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
鷲津 明由 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (60222874)
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研究期間 (年度) |
2015-07-10 – 2020-03-31
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キーワード | スマートフード / 家庭内生産関数 / 産業連関分析 / スマートアグリ |
研究実績の概要 |
スマート化した社会(スマート社会)では,情報通信技術が(a)社会内部の管理運営を効率的にマネジメントすることによって無駄を徹底的に排除し,(b)これまでとは異なる次元の社会の構成要素間のマッチングを生み出して新たなサービス産業や価値を創出する。このような情報通信技術のもたらすこのようなスマート化が,食料関連産業・農業にもたらす影響を,産業連関分析によって評価した結果が,国際的な学術誌(Telecommunications Policy)に掲載された。 また,スマートフードの需要サイドの視点から,スマートフードシステムに期待される新たなサービス価値とは,どのようなものであるかの考察を行った。すなわち,食の便利さの追求が,「手作りされた」豊かな食卓を阻害するとの懸念があるなかで,食のスマート化は,便利な食卓が「手作りされた」食卓と同等の豊かさを持つように勧められるべきである。ライフスケープマーケティング「食MAP」によれば,首都圏400世帯・1年間の食卓情報が,世帯の属性とともに,食卓数 約20万件,メニュー数 約1000種類,材料数 約2300種類という豊富なデータ量で得られる。このデータを利用し,また,産業連関のアクティビティ分類の概念を用いることで,人々の食卓内容を,便利さと手作りの2つの指標で定量化した。そして,食品の便利さと手作りの労力と,アウトプットとしての食卓についての,家庭内生産モデルを応用した理論モデルを構築し,それに基づいて,いろいろな属性を持つ世帯における,食卓の便利さ手作りとの関係を分析した。結果,手作り指標は,便利さ指標と負の相関を持つが,その関係は世帯属性や世帯の意識のあり方に応じて上下にシフトすることが分かった。高齢化社会にあって,高齢者の食卓を豊かにするためのスマートフードシステムについて考察する必要があると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
情報通信技術のもたらすこのようなスマート化が,食料関連産業・農業にもたらす影響を,産業連関分析によって評価した結果について,ハイインパクトジャーナの一つであるTelecommunications Policyに掲載を果たすことができた。 また,食品の便利さと手作りの労力と,アウトプットとしての食卓についての,家庭内生産モデルを応用したモデル分析の成果を,現在,ハイインパクトジャーナの一つであるFood Quality and Preferenceに投稿準備中である。 研究期間を一年延長して,本年度には食卓の家庭内生産モデル分析をさらに精緻化するために,大規模アンケート調査を実施することを計画している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はまず,食品の便利さと手作りの労力と,アウトプットとしての食卓について,家庭内生産モデルを応用したモデルを構築し分析した結果について,海外のハイインパクトジャーナルにおける発表を目指す。また,上記モデルを精緻化するために,10000人規模のウェブ調査を実施する予定で,現在調査の準備を行っている。本調査については,すでに早稲田大学内の倫理審査を通過しており実施許可を得た。また,具体的に調査を委託する業者の選定も終了し,現在アンケート調査票の最終案を作成中である。調査ではまず,一番最近,自宅でふだんの夕食(特別でないときの夕食)をしたときのメニュー数と,その名称,メニューのそれぞれに用いた食材を,産業連関のアクティビティ分類の概念を用いて便利さの程度別に分類した食材の分類項目別の情報(名称と合計数),各自が食卓準備の際に持っている意識調査(忙しかったりおっくうだと感じているか,外食好きであったり市販品の利用を良くしているか,計画的な食生活をしているか,健康や栄養配慮等),および,いつも食材を購入している店舗までのおおよその距離,家族構成等を調査する予定である。そのうえで,食卓の家庭内生産関数がどの要因で最もシフトしやすいかを詳しく分析する予定である。それによりスマートフードシステムのマネジメント機能の具体的な利用法について示唆が得られることを期待している。 研究期間終了後も,本課題で得られた成果を,海外ジャーナル発表等により発信していくとともに,つぎの研究(スマートフードシステムのもたらす環境効果)へと展開し,そのために必要な科研費ほかの新たな資金獲得を目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究は極めて順調に進んだが,最終成果を海外ジャーナルに投稿するための準備中であるため,残額を成果公表用資金として繰り越した。
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