研究課題/領域番号 |
15KT0122
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
武田 直也 基礎生物学研究所, 共生システム研究部門, 助教 (60571081)
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研究期間 (年度) |
2015-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 共生 / 植物微生物相互作用 / 菌根菌 / 根粒菌 / 共生促進剤 |
研究実績の概要 |
現在、日本では食料自給率の改善が急務とされ、また世界的な植物バイオマスの利用価値への注目から農業生産性の向上が望まれている。現代農法では過剰な化成肥料・農薬の添加によりその生産性を維持しているが、持続的な農業の発展のためには化成肥料・農薬の使用量の低減が可能となる環境低負荷型の農業スタイルの確立が不可欠となる。植物と菌根菌・根粒菌との菌根共生・根粒共生はリンや窒素などの栄養を供給することで宿主植物の生育の大きな恩恵をもたらす。この共生の成立過程は宿主植物、共生菌の共生因子により制御されているが、外部の温度・湿度・栄養状態などの環境因子によっても大きく影響を受けるため、宿主への生育促進効果も不安定なものとなってしまう。本研究では共生菌の感染能と生育促進効果をもつ物質の探索と解析を行い、それらの物質を添加することによって共生能の向上と安定制御を行うことを目的とした。 このアプローチとして、根粒菌・菌根菌と共生状態にある植物での共生の場となる根部、生育促進効果がみられる地上部でのトランスクリプトーム解析や、共生シグナル分子を添加した際のトランスクリプトーム解析を行い、共生時に変動する遺伝子・物質の探索を行っている。また、同定した物質の共生促進効果の評価を行うため、共生菌の感染効率や栄養供給能などを測定する技術開発を行った。 この共生の成立を外部から調整しうる「共生促進剤」を開発することで、共生栄養供給能を用いた微生物肥料としての共生菌の利用を促進し、低肥料・低環境負荷型農業とバイオマス増産という相反する課題を解決に貢献する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
根粒菌・菌根菌と共生させたマメ科植物ミヤコグサでのトランスクリプトームデータ、共生シグナル分子を添加したデータ、および共生変異体のデータ取得を行った。共生シグナル分子としては、根粒共生時に根粒菌から分泌されるNod factor、菌根共生時に菌根菌から分泌されるキチンオリゴマーを添加した植物体での発現プロファイルを取得した。共生変異体としては、根粒の過剰着生、菌根菌の過剰感染が確認されている変異体har1およびtmlのトランスクリプトーム解析を行った。これらの共生変異体では非感染状態での植物状態が共生菌の感染や共生器官の形成を促進していると考えられたことから、非感染状態での根および地上部の発現プロファイルの取得を行った。トランスクリプトーム解析の手法としては、次世代シーケンサーを用いたRNA-seqを用いた。上記のサンプルより抽出したRNAから次世代シーケンス用ライブラリを作製し、Illumina Hiseq2000を用いて数M~数十M readsのショートリード情報を取得した。現在、これらのデータの解析を行っている。 このような解析によって得られた共生促進効果を持つ物質については、菌根菌、根粒菌の感染率の測定法や、共生栄養供給能の評価、生育促進効果を統一した基準で、栽培室レベルで評価をおこなう。そのための評価法として、根粒菌に関しては根粒菌の感染経路である感染糸形成数と共生器官である根粒の計測条件の確定を行った。また、その根粒における窒素固定能の測定技術として、ガスクロマトグラフィーを用いたアセチレン還元活性測定の測定法を導入した。菌根共生においては、接種胞子数に応じた感染率の変化を測定することで宿主植物における感染能の変動と生育促進効果を評価する手法を確立した。とくに応用対象として想定しているネギを用いた測定では、安定した感染と生育促進効果を計測できるようになっている。
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今後の研究の推進方策 |
平成27度の解析で得られたRNA-seqデータをインフォマティクスによる解析を行い、これらの遺伝子発現プロファイルから共生促進物質の候補となる物質とその合成遺伝子・経路の情報を得る。ここでは、関連する生合成遺伝子に変動が見られれば、遺伝子発現の大きな変動が無い遺伝子であっても、コアとなる律速酵素遺伝子やその制御系に働く遺伝子についての解析も行い、その代謝経路全体に注目して研究を進めていく。これらの研究によって同定した候補物質は、その共生促進効果の大きさとともに、現時点でその物質が大量に入手可能であるか、効果に対してコスト面で見合うものであるかなども考慮して優先順位をつけ、詳細な機能解析を行っていく。この共生効果の観測や遺伝子機能解析では、宿主植物だけでなく、共生菌における増殖や感染形態の変化、共生菌側の共生遺伝子発現などへの影響も解析していくことで、それらの物質が効果を発揮する機構について解明していく。現在、共生の評価法としては、基礎的な研究に用いるミヤコグサのほかに、作物種としてネギを有効に使用できることが明らかとなっている。そのため、本研究により同定した共生促進因子が、広い植物種おいて普遍的に存在する共生システムで機能する物質であることを証明するとともに、実用に向けた作物への知見の適用も行うことができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、雇用を予定していた技術支援員に適任者がいなかったため、平成28年度に繰り越して雇用することとした。また平成27年度分の次世代シーケンス費用の一部を運営費などで賄うことができた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度、適任者がいなかった研究支援を行う人員を平成28年度に雇用した。また、研究推進のため、次世代シーケンスの拡張を行うことを計画しておりその費用に充てる予定である。
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