本研究課題の目的は、第二次大戦の独ソ戦の記憶の状況を、旧ソ連各地で調査することである。最終年度は、中央アジア調査、これまでの成果をとりまとめ、学会発表、論文の執筆を計画していた。 海外調査は、アゼルバイジャン、トルクメニスタン、モルドヴァ、ルーマニアで行った。以前行ったアゼルバイジャン調査が、怪我のため不十分であったことや渡航費用・航空機スケジュールを勘案して、当初予定していたカザフスタン調査からアゼルバイジャンに切り替えた。渡航が困難なトルクメニスタンでの調査も無事に行うことができた。アゼルバイジャン及びトルクメニスタンは指導者による強権体制で知られ、独裁国家として国際社会では批判されている。これらの国は、第二次大戦の戦場になっていないため、主に銃後の記憶継承、ソ連崩壊後の顕彰の在り方の変遷、そしてスターリニズムとの比較のため、指導者イメージの調査を重点的に行った。また、モルドヴァ調査はルーマニア調査と合わせて行うことで、旧ソ連の領域か否かが、戦後の戦争記憶とナショナルアイデンティティの大きな要点であることを確認することができた。以上をもって、旧ソ連から独立したすべての民族共和国の現地調査を実施できた。ほとんどの国は直行便がなく、陸路での国内移動や国境越えが難しいケースもあった。本研究課題の支援があればこそ達成できた成果である。 これ以外にも旧ソ連の近代都市の原型としてのパリ調査、私費によるDPRK調査を行い、比較検討の資料収集を進めた。 研究成果のアウトプットとしては、口頭発表が二本、共著書1冊、現行3本を提供した事典が刊行された。特に『ロシア文化事典』では「記念碑」の項目を担当し、本研究課題の成果を社会にフィードバックすることができた。 また研究組織活動にも取り組み、社会主義圏の文化に関する研究会一本を企画・運営した。
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