研究課題/領域番号 |
15KT0127
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
増田 美砂 筑波大学, 生命環境系, 教授 (70192747)
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研究分担者 |
志賀 薫 国立研究開発法人 森林総合研究所, 四国支所, 研究員 (80726125)
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研究期間 (年度) |
2015-07-10 – 2018-03-31
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キーワード | ジャワ / 違法伐採 / 森林開墾 / 森林官 / 研修 / PHBM / LMDH |
研究実績の概要 |
林業公社中ジャワ営林局およびその管区の4営林署において資料および情報収集を主体とする予備調査を実施した.前者については,営林署レベルの年次報告書,統計書,および住民共同森林管理(PHBM)の実施機関である森林村住民組織(LMDH)のデータベースを収集した.その結果,FSC認証を取得している2営林署のドキュメンテーションがたいへんよいのに比して,認証を受けていない2営林署では,直近の年の資料しか保管されていないことがわかった. 後者の1営林署で,違法開墾が行われている現場のうち,国営企業のゴム園とチーク造林地が隣接している現場を訪れたところ,住民がゴム園には干渉せず,専ら国有林を開墾していることがわかった.住民に対する予備的な調査を行ったところ,販路のないゴムは伐っても収入をもたらさないのに対し,チークは現金収入をもたらすため,まずチークを違法伐採し,跡地の有効利用として開墾を行ってきたことが示唆された. 他方,東ジャワ州マディウン市にある林業公社の人的資源教育研修センターを訪問し,森林官の研修システムと人事システムについて,インタビューと二次資料により情報を収集した.林業公社においては,体系的な森林官研修システムが確立しており,現在のカリキュラムには,林業公社の住民対策の柱であるPHBMや,コンフリクト・マネジメントについての内容も含まれていることが確認された. 林業公社の森林経営に関わる末端組織は,生産に特化した組織と,森林管理を担う組織からなり,従来は後者に対して警察権が付与され,違法行為の取り締まりが主たる活動であったが,その組織がPHBMのインターフェースに転用されていることが示唆された.その際に研修カリキュラムの果たした役割について明らかにすることが,次年度以降の課題の一つとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ジャワ島における調査について,調書では夏季休業期間中にまとまった時間をかけて予備調査と本調査を一度に実施する計画であったが,初夏になってようやく示達があった. インドネシアにおける調査許可の取得に際しては,カウンターパートや在外公館における事前の手続きを経たのち科学技術省に申請を行う.その後の審査や調査活動資格を有する査証取得にも,順調な場合でもさらに約3ヶ月を要するため,夏季休業中には本調査を実施できない見込みとなった.そこで年度内には,調査許可の不要な予備調査のみを実施することとし,本調査を次年度に先送りした. 予備調査では,計画調書に従い中ジャワ州のチーク林地帯に焦点を当て,4営林署をまわって営林署統計,年次報告書,および内部資料であるデータベースの収集を行った.その結果,本申請課題の研究対象である住民森林管理(PHBM)について,必ずしもデータベースが完備されているわけではないことがわかり,次年度の計画をさらに修正する必要が生じた.
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今後の研究の推進方策 |
2016年度にはまず,インドネシア科学技術省に対して調査許可の申請を行うとともに,林業公社においても営林署よび職員に対する調査の許可を申請する.学内においては,倫理委員会に申請を行い,以上のすべての許可を取得した上で,以下の現地調査を実施する. 資料調査:予備調査の結果,営林署によって統計資料の保管やデータベースの整備状況に大きい差があることがわかったため,対象をチーク林作業級に含まれるすべての営林署に拡大し,予備調査で行った内容と同様の資料収集を行い,事例の選定を再考する. 森林局職員を対象とするアンケートおよびヒアリング調査:林野行政と地域住民の村落レベルでのインターフェイスとしての現場森林官に注目し,彼らがPHBMにおいて,ファシリテーションや取り締まりなどの森林政策をどのように運用し,森林コンフリクトのマネジメントを行っているのかを,インタビューや質問表調査により明らかにしていく.また人的資源教育研修センターでの研修を,受講者たる現場森林官がどの程度,どのように理解しているかも併せて調査する. 森林村住民組織(LMDH)を対象とするヒアリング調査:2015年度に収集した営林局統計に加え,上記の補足調査の結果をもとに,事例とする営林署を選定し,その管区におけるLMDHを対象に,分収金契約,実際の使途,執行部および会員情報,会議の開催,および分収金以外の活動についてヒアリングを行う. 森林村住民を対象にした世帯調査:リヴォルビングファンドを有するLMDHを選び,その構成集落の住民に対する世帯調査およびPHBMや森林保全に対する意向調査を実施する.
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次年度使用額が生じた理由 |
申請課題の遂行には長期の現地調査が不可欠である.外国人がインドネシアで調査を行うに当たっては,インドネシア科学技術省から調査許可を取得しなければならず,加えて対象に国有林を含む場合は,その管理組織(本申請課題の場合は林業公社)からも許可が必要となる.ところが2015年度の示達が夏季休業間近であったため,取得に3~6ヶ月を要する許可の申請は見送らざるをえなくなり,かわりに林業公社の許可だけで実施できる資料調査のみを予備的に実施した. その結果,2015年度内における本調査の実施を想定した予算の一部を,2016~2017年度に繰り越すこととなった.2015年度に行った予備調査の結果,関係各機関との調整や課題の絞り込みができたため,2016年度はより効率的に調査を遂行できると考える.
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次年度使用額の使用計画 |
2015年度は4営林署に限定して資料調査を行ったところ,営林署によって文書の保管やデータベースの整備状況も異なることが明らかになった.そこで研究協力者も加え,資料調査の範囲を広げ,チーク林作業級にみからなる13営林署すべてにおいて資料収集を行う.またその中から選んだ営林署において,森林村住民組織(LMDH)の執行部役員を対象とするヒアリング調査を,同様に広域的に実施する.また事例を選び,LMDHのある森林村の住民全体を対象とする世帯調査を実施する. 2016年度予算の大半は,以上の現地調査,学会参加,および研究打合せに用いる.
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