研究課題/領域番号 |
15KT0131
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
大坪 庸介 神戸大学, その他の研究科, 准教授 (80322775)
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研究期間 (年度) |
2015-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 紛争解決 / 領土問題 / 謝罪 / 補償 / 神聖な価値 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、日本が抱える領土問題(竹島問題、北方領土問題)に関して、イスラエルとパレスチナの紛争において観察された補償金へのネガティブな反応が追試可能であるかどうかをインターネットを用いた調査で検討した。Gingesらの先行研究では、ヨルダン川西岸地区の所有を譲ることができない“神聖な価値”であると考えるイスラエル人・パレスチナ人はともに、相手が当該地区に対して金銭的な補償を行うというシナリオを提示されることにより、紛争の解決困難さを高く見積もる等、態度をより硬化させることが報告されている。本研究では、竹島を不当に実効支配していたことに対して韓国が補償するまたは公式に謝罪するというシナリオ(北方領土についてはロシアが補償するか公式に謝罪するかというシナリオ)に対する回答者の反応を調べた。その結果、先行研究と同様に、竹島(北方領土)は絶対に譲ることができない日本固有の領土であると考えている者では補償により態度が硬化したが、そうでない者は態度が変化しないかむしろ融和することが示された。この結果は、実際の宗教的な問題(神聖な価値)をはらむ紛争ではなくても、金銭的補償がかえって紛争解決を難しくする効果をもつ可能性を示唆するものであり、平成28年度以降のより詳細な研究の予備的知見を提供する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は実施予定であった、Gingesの追試研究を竹島問題、北方領土問題という日本が抱える2つの領土問題に関して実施することができた。また、いずれの研究でもGingesらの知見をおおむね再現しており、Gingesらの知見が宗教的対立に限定されないことが示された。これらの研究実施は、当初計画していたものであり、これら2つの調査が実施できたことから計画は順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は平成27年度に引き続きGingesらの知見の再現性を検討するという計画になっている。平成27年度の結果から、Gingesらの知見は日本の領土問題という文脈でも再現可能であることが示された。また、同時に実施した道徳基盤質問紙の結果を調べたところ、内集団への忠誠といった国際紛争への態度との関連が容易に想像される道徳心は、領土問題への態度とは無関係であった。そこで、平成28年度は道徳基盤と領土問題への態度をさらに詳しく検討するインターネット調査を実施する予定である。 また、学生サンプルなどを用いて、金銭的補償へのネガティブな反応を詳細に検討する。なぜ金銭的な補償に対してネガティブな反応をとるのかについて、神聖な価値仮説では、領土を金銭的な価値に置き換えることに対する嫌悪感情が重要であると予測する。しかし、金銭的補償を受け取ることにより相手が解決を主導するという印象を受ける、相手の立場が上のように感じられるといった支配・服従関係がプライムされるためにこのような結果が生じているかもしれない。そこで、平成28年度はネガティブな反応の内容を学生サンプルを対象にインタビューなどを交えて子細に検討する予定である。また、支配傾向などの個人差が領土問題に対する態度にどのような影響を及ぼすかも探索的に検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究費の支給の連絡を受けたのが夏頃であり、研究スケジュールがタイトになったために申請書で実施予定と記載していた学生サンプルに対する調査が実施できなかった。そのため、学生サンプルを用いた調査の実施にかかる予定であった経費が使用されないことになった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度は、平成27年度の調査結果を踏まえて、学生サンプルを対象とした追試研究を実施予定である。昨年度の学生サンプル対象の調査ができなかったために発生した助成金は、今年度の学生サンプル対象の調査を拡充することで使用する予定である。
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