本研究では、ノンゼロ関係が国際紛争における融和的態度を促進するかどうかを検討した。その結果、相手国が貿易の重要なパートナーであること(相手国とのノンゼロの関係)を認識させることで、融和的態度が上昇することが示された。具体的には、韓国との竹島問題を題材として、橋本徹氏が以前言及し、紛糾した韓国との竹島の共同管理という考えを受容する程度を調べた。実験には640人がオンラインで参加し、半数がノンゼロ関係を想起する関係価値高条件に割り振られ、残り半数は韓国との間でのノンゼロ関係を想起しない関係価値低条件に割り振られた。いずれの条件の参加者にも、まず日本の貿易についての理解度テストと称して、6種類の輸出入品の上位3位の取引パートナーを予測してもらった。関係価値高条件で提示した6品目については、いずれも韓国が上位3位に入っており、関係価値低条件で提示した6品目については、いずれも韓国は上位3位に入っていなかった。参加者の予測が終わると、正解をフィードバックした。したがって、関係価値高条件の参加者は、日本の貿易にとって韓国が上位に入る大事なパートナーであるという印象をもったはずである。その後、竹島問題が解決するならば竹島を韓国と共同管理することもやむをえないという考えに賛成する程度が測定された。その結果、関係価値高条件の参加者は関係価値低条件の参加者よりも、共同管理を受容する程度が高かった。また、韓国やその他の国との関係価値を認める程度(特性としての関係価値知覚傾向)が、融和的態度を予測することも示された。これらの結果から、対人関係の研究で主に観察された関係価値が紛争解決を促進するという知見は、国際的な場面にも拡張可能であることがわかった。
|