研究課題/領域番号 |
15KT0132
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
廣瀬 陽子 慶應義塾大学, 総合政策学部(藤沢), 教授 (30348841)
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研究期間 (年度) |
2015-07-10 – 2020-03-31
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キーワード | 凍結された紛争 / 未承認国家 / 共同経済活動 / 帝国 / 連邦制 / ナゴルノ・カラバフ紛争 |
研究実績の概要 |
H28年度は基本的に当初予定していた通りに研究を進められ、単著、共著、論文、学会発表、国際会議発表と様々な形で、国内外に多くの研究成果を出せたと考えている。 H28年4月に凍結された紛争の一つである「ナゴルノ・カラバフ紛争」の停戦が破られ、4日間ながらも戦闘が再燃したことは想定外だったが、凍結された紛争の研究の重要性はさらに明確になったと言える。なお、本件については、『アゼルバイジャン--文明が交錯する「火の国」』で論じた他、“The Complexity of Nationalism in Azerbaijan”では紛争再燃の背景の一つを明らかにした。 それ以外は予定通りに研究が進んだ。まず、凍結された紛争と切り離せない未承認国家の問題を帝国や連邦の遺産として捉える研究を進め、国際政治学会大会の部会における学会発表や論文発表ができた。特に学会発表においては、多くの示唆を得ることができ、研究を深める上で大きな成果があった。 さらに、凍結された紛争の解決を模索するための事例としての北極圏の国際関係の研究も進めることができた。ノルウェー、フィンランド、ロシアの研究者と研究協力をしつつ、国際会議で2度の論文発表をした他、現在、一本の英語論文を投稿中である。 また、H28年度は凍結された紛争が多く存在する黒海地域の共同研究でも共著として成果を出すことができた。凍結された紛争は地域のアクターの相互行為、政治、経済などあらゆる問題によって引き起こされ、引き延ばされてきたため、このような総合的な共同研究は本研究に大いに資すると考える。 最後に、H28年度はソ連解体四半世紀という節目の年であった。ソ連解体は多くの凍結された紛争を生む契機となったことから、ソ連解体を振り返りつつ、凍結された紛争についての位置付けの再検討も行い、近年の凍結された紛争をめぐる諸問題を総合的に問い直すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、当初の研究計画通りにはいかなかった面も多々ある一方、新しい視点での研究が顕著に進んだこと、また当初の計画で果たせなかった問題には後で取り組めると考えていることから、全体の研究期間を通じて考えれば、研究の進行はまず順調だと言えると考える。 H28年度には、中国については、国際会議の折に若干のインタビューができたとはいえ、当初予定していた韓国、台湾での現地調査を行わなかったが、米国でのトランプ大統領誕生や世界的に見られたポピュリズムの潮流などにより、台湾での現地調査を現在行うことが適切だと思えなかったこと、韓国も国内情勢の混乱により、調査は情勢が安定してからの方が良いと考えたことによるためで、建設的な延期だと考えている。 他方、凍結された紛争を解決、予防していく事例として北極圏の国際関係に注目し、ノルウェーやフィンランドで現地調査を行い、当該問題について2度国際会議で報告したことにより、多くの国々の研究者の見解を知ることができ、大変大きな収穫を得ることができた。紛争予防やより良い紛争解決・妥協の模索を考える上で、北極の事例は極めて良いテストケースであると考える。バレンツ地域の地域アイデンティティに基づく協力、そしてその果実の一つとしてのロシアとノルウェーの領土問題の解決の事例は紛争予防を考える上で大きな示唆を受けている。また、現在、日本とロシアが懸案の北方領土の「共同経済活動」を検討しているが、ロシアの主権下での活動を主張するロシアと新しい共同ルールを構築しようとする日本の間で、実現は難航しそうである。その問題についても、ノルウェーのスヴァールバル諸島におけるノルウェーとロシアの活動は大いに参考になりそうである。 このように、当初予定いた計画を延期した一方、当初予定すらしていなかった研究の側面が加わり、全体としては良い形で研究が進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
当初、全く予定になかったが、H29年度には科学研究費の「国際共同研究加速基金」により、約1年間、フィンランド・ヘルシンキ大学のアレクサンテリ研究所で研究が行えることになった。同研究所では、ハンナ・スミス研究員との共同研究により、旧ソ連諸国・東欧の「凍結された紛争・長期化した紛争」研究を深めることになっているが、その成果は本研究にそのまま活かすことができる。なお、その共同研究は、ドイツのレーゲンスブルク大学と協力して進めていることから、多くのドイツ人研究者との協力しつつ進めていくため、極めて多面的に旧ソ連・東欧地域の凍結された紛争問題を検討して行くことが可能である。出版の計画もあり、最新の「凍結された紛争」に関する研究を世界に発信できる予定である。 他方、H29年度には当初。東ティモールとベトナムでの現地調査を予定していたが、フィンランドは旧ソ連諸国や東欧諸国と近く、また同研究所にも世界の研究者が訪問研究員などの形で集まっていることから、研究方針を転換してアジアでの現地調査は延期し、H29年度は旧ソ連、旧東欧圏の実証研究をより深めつつ、H28年度から紛争予防・解決のテストケースとして研究を始めた北極圏の国際関係の研究を進めることにより、当該研究を深めていきたいと考えている。北極圏の問題についても、前述アレクサンテリ研究所やフィンランド国際問題研究所の専門家らともH28年から研究協力を行なっているため、より良い環境で深めて行くことが可能である。 H30年度以降は、日本をベースとして研究を行うため、これまで延期してきたアジアの事例研究も効率よく行うことができるため、状況を見極めて研究計画を臨機応変に変更しつつ、アジアを中心に研究計画を再構築して行く。 H31年の最終年度に向け、より長期的な視点で、効率性と研究成果の有益性を最優先しつつ、柔軟に計画遂行を目指す予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は、「凍結された紛争:その予防と積極的平和の模索」を研究課題としているH28年度からH30年度までの科学研究費・国際共同研究促進基金の課題と不可分の関係にあり、必要文献などもかなり重複していることから、本資金で想定していた支出予定を別資金で支出したことにより、次年度に繰り越す資金がでてしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
本繰り越し資金については、今年度に計画している欧州地域での現地調査や来年度以降に延期したアジア地域での現地調査の費用として使用することを予定している。
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