研究課題/領域番号 |
15KT0132
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
廣瀬 陽子 慶應義塾大学, 総合政策学部(藤沢), 教授 (30348841)
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研究期間 (年度) |
2015-07-10 – 2020-03-31
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キーワード | 凍結された紛争 / 未承認国家 / 民族共存 / グランド・ストラテジー / 安全保障のジレンマ / 狭間の政治学 / ハイブリッド戦争 / 沿ドニエストル問題 |
研究実績の概要 |
H29年度は基本的に予定通りに研究を進められ、論文、国際会議や国際ワークショップなどにおける発表と様々な形で、国内外に多くの研究成果を出せた。加えて、政策提言を行うための調査なども始め、多面的に研究が進められた。 H29年度には、科学研究費の「国際共同研究加速基金」によりフィンランド・ヘルシンキ大学のアレクサンテリ研究所で共同研究を中心に研究活動を行った。凍結された紛争と不可分な未承認国家問題に関する共同研究は同研究所におけるものだけでなく、ドイツのIOS(The Leibniz Institute for East and Southeast European Studies)を拠点に「サイレント・コンフリクト(凍結された紛争と同じ現象を指すが、議論の上、より的確な用語だとした)」に関し、欧州の多くの研究者たちと共同研究を行った。本共同研究においては、モルドヴァ共和国の沿ドニエストル問題を題材とし、「安全保障のジレンマ」という概念を用いてウクライナ危機との関係を明らかにした。本共同研究の成果は、Europe-Asia Studies誌に特集号で発表される予定となっている。 また、国家間の緊張関係を生み出す領土問題は、たとえ紛争に至っていなくても、潜在的な紛争であり、凍結された紛争と極めて似た性格があることから、紛争には至っていない領土問題も検討課題にするべきであると考えた。そして、日本の重要課題である「北方領土問題」を事例として検討し始めた。 さらに、本研究課題では凍結された紛争を解決するための政策提言を行うことも予定しているが、そのためには民族共存が成功している事例を調査するべきだと考え、北極圏の4か国に分布するサーミ民族と所属する国家との対立から平和共存へと至る過程と現在も残る問題、それに対する政府の対応を検討することとし、フィンランドとノルウェーで現地調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H29年度の研究の進捗については、当初の研究計画通りにはいかなかった面も多々ある一方、新しい視点での研究が進んだこと、在外研究の利点を活かした調査ができたこと、欧州の研究者たちと共同研究ができたことなど、当初の予定にはなかった点において、顕著な進展があったこと、また当初は計画していたが実現できなかった側面については後で取り組めると考えていることから、全体の研究期間を通じて考えれば、研究の進行はまず順調だと言えるだろう。 H28年度に予定していた韓国、台湾での現地調査、H29年度に予定していた東ティモールとベトナムでの現地調査が、未だに実現できていないが、H29年度にフィンランドで在外研究を行っていたため、以下の理由から、あえてそれらの調査を延期した。何故なら、北欧からアジアに現地調査に赴くのは非効率であり、むしろフィンランドにおける在外研究中に欧州での現地調査を行った方が有益であると考えたからである。そのため、この予定変更は、建設的かつ積極的なものであると考える。他方、欧州における現地調査や多くの欧州圏の研究者との交流やインタビューの機会が持てたことは極めて有益であり、本研究の成果をとても豊かにしてくれた。 そのため、当初の予定が達成できなかった分を、新たに計画した研究によって十分に埋めることができる成果があったと考えており、全体としての進捗状況は概ね順調であると判断した次第である。
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今後の研究の推進方策 |
H30年度は、科学研究費の「国際共同研究加速基金」によりH29年度にフィンランド・ヘルシンキ大学のアレクサンテリ研究所で行った研究の成果をまとめると同時に、研究をさらに深め、政策提言にも踏み込んでいく予定である。 H29年度までの研究のまとめとしては、「凍結された紛争」もその趨勢に大きな影響を与える「ユーラシアプロジェクト」に関する単著を出版するほか、「凍結された紛争」の事例研究の対象の一つであるアゼルバイジャンに関する編著も出版する予定である。また、「凍結された」紛争の一事例として「沿ドニエストル」とウクライナ情勢を絡めた共同研究の結果を論文として発表する予定である。 H30年度の研究方針としては、まず、フィンランドを初めとした欧州の研究者との共同研究は継続しながら、アジアにも目を向け、より包括的な研究を行っていきたい。欧州の研究者との共同研究としては、ウクライナ問題と凍結された紛争を絡めた研究を継続して行っていきたい。ウクライナ情勢については、日本の研究者との共同研究も進める。その一方で、H30年度以降は、日本をベースとして研究を行うため、これまで延期してきたアジアの事例研究も効率よく行うことができるため、状況を見極めて研究計画を臨機応変に変更しつつ、アジアを中心に研究計画を再構築して行く。 また、H30年度はアジアにおける凍結された紛争を考えていく上で、身近な事例を検討することも重要であるという意識から、北方領土における現地調査、政策提言を行うほか、北方領土問題と日露外交関係の兼ね合いから日露の平和共存を探る論文も発表していきたい。さらに、年度の後半でアジア地域における現地調査をできる限り多く行う。 H31年の最終年度に向け、まとめの体勢に入って行くが、より長期的な視点で、効率性と研究成果の有益性を最優先しつつ、柔軟に計画遂行を目指す予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は、「凍結された紛争:その予防と積極的平和の模索」を研究課題としているH28年度からH30年度までの科学研究費・国際共同研究促進基金の課題と不可分の関係にあり、研究に必要な調査や必要文献などもかなり重複していることから、本資金で想定していた支出予定を別資金で支出したことにより、次年度に繰り越す資金がでてしまった。 本繰り越し資金については、今年度以降に延期したアジア地域での現地調査の費用として使用することを予定している。
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