研究課題/領域番号 |
15KT0133
|
研究機関 | 立正大学 |
研究代表者 |
山本 仁志 立正大学, 経営学部, 教授 (70328574)
|
研究期間 (年度) |
2015-07-10 – 2019-03-31
|
キーワード | ソーシャルメディア / 集団極性化 / 規範の進化 / シミュレーション |
研究実績の概要 |
ソーシャルメディアの発展が政治的議論において熟議を深めるのか、意見の分断化・極端化をもたらすのかを分析するために、Twitterユーザのメディア接触の分断化を測定・分析した。本年度は党派性に基づいた日本のニュースオーディエンスの分断化の程度を検証するため、ツイッターのクロールデータとサーベイデータを組み合わせた分析を行った。 具体的には、国会議員とニュースメディアのアカウントをともにフォローしているツイッターユーザを対象として、国会議員の党派性得点とクロールされたフォローパタンを用いてツイッターユーザの党派性を推定した。包括的なクロールデータを用いることのメリットは、実験では明らかにならない分断化の程度を明らかにすることができる点にある。実験状況では党派的な選択的接触は繰り返し確認されるものの、それが現実社会でどの程度のスケールで生じているのかについてはメディア接触の測定誤差の問題もあって明らかではない。ツイッターではAPIを用いて網羅的にデータをクロールすることが可能であり、このことによってTwitter上でのオーディエンスの分断化のスケールを評価することができる。その結果、新聞主要3紙のフォロワーについてはイデオロギーの分断化は観察されなかったが、中堅紙でイデオロギー色の強い新聞のフォロワーに関しては明確な分断化が観察された。 また、社会において意見・規範がどのように生成され共有化されていくのかのメカニズムを分析するためのシミュレーションモデルの構築と分析をおこなった。社会に様々な規範が混在する状況を「規範の生態系」として捉え、ゲーム理論のモデルを用いて社会のモデルを構成した。その際、生態系の中での規範の進化を計算するために遺伝的アルゴリズムという手法を用いて分析モデルを構築した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ソーシャルメディアの分析については当初の計画通り、データの収集・分析は完了している。特にニュースオーディエンスの分断化の分析は計画通りに進捗し、新聞主要3紙のフォロワーについてはイデオロギーの分断化は観察されなかったが、中堅紙でイデオロギー色の強い新聞のフォロワーに関しては明確な分断化が観察されるという興味深い知見を得ている。現在、成果を学術論文として執筆中であり本年度中の投稿・採択を計画している(Asian Journal of Communicationを想定)。また、世論形成のシミュレーションについても分析は完了しており執筆中である(JASSSを想定)。規範と協力の共進化については、論文が平成28年度中に採択された(Scientific Reports)。これらの結果を総合し、進捗は順調であると判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、ニュースオーディエンスの分断化について更なる精緻な分析を行い、分断化の度合いを定量的に計測できる指標の開発をおこなう。また本テーマについては2014年からの準備期間に収集したデータと統合することで時系列的な分断化の進展を分析することが可能である。本年度は時系列データを用いた分析を行うことでソーシャルメディアの利用が世論の分断化に与えるダイナミクスを分析する予定である。また、シミュレーションによる分析については世論形成シミュレーションの学術雑誌への投稿を予定している。規範・意見の進化と社会における共有過程の分析については、28年度に引き続き、社会に様々な規範が混在する状況を「規範の生態系」とする新たなアプローチのモデルを精緻化する予定である。シミュレーション研究においては現実社会のネットワーク構造をソーシャルメディア分析で得られたデータと統合することでモデルに取り入れる予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
消化率は90%以上であり、おおむね予定通りの支出を行っている。シミュレーションサーバについて、現有資産の活用ならびに他の機関の計算資源の活用が可能となり予算を下回ることとなった。一方国際的な成果発表ならびに情報収集が進んだため、学術論文の掲載費用、国際会議における発表などを重点的におこなった。
|
次年度使用額の使用計画 |
おおむね予定通りであったため大きな計画変更はおこなわない。一方、現在投稿予定中の学術論文の掲載について、国際的な潮流を鑑みオープンアクセスが可能な雑誌を想定している。そのため掲載費用が多くかかることが予想されるため次年度使用額予算を成果発表に充てる予定である。
|