研究課題/領域番号 |
15KT0135
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
植木 千可子 (川勝千可子) 早稲田大学, 国際学術院(アジア太平洋研究科), 教授 (50460043)
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研究期間 (年度) |
2015-07-10 – 2019-03-31
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キーワード | 国際関係 / 国際政治学 / 安全保障 / 抑止論 / ナショナリズム / 紛争研究 / 戦争予防 / 相互依存 |
研究実績の概要 |
当研究は、通常兵器による拒否的抑止の成功条件を考察することを目的としている。紛争研究において、抑止の成立条件の特定は、紛争回避の上で重要である。核兵器の開発以降、戦争は勝利するものではなく、抑止するものだという認識が共有されている。抑止には、懲罰的抑止と拒否的抑止の2種類があるが、既存の抑止研究は冷戦時代の米ソの対立を背景に理論化が進んだため、そのほとんどが懲罰的抑止の研究である。しかし、現在の世界は冷戦時代とは大きく異なる。つまり、核保有大国間の相互依存が進み核戦争勃発の危険が低下した一方、小規模紛争の発生の蓋然性は増している。本研究においては、とくに、これまで安全保障・抑止論で扱われることが比較的少なかったナショナリズムの問題にも注目して、検討したいと考えている。 当該年度は前年度に引き続き、新しい状況下における実態の把握を目指した。具体的には、2つの側面を中心に検討した。第1は抑止をめぐる当事者の認識などの実態調査である(1)。第2はナショナリズムに関する検討である(2)。 抑止をめぐる当事者の認識については、安全保障の専門家・実務家によって現在の抑止(通常兵力による拒否的抑止)がどのように認識されているかについて実態調査を行った。日本、米国、豪州、中国の専門家・実務家らを対象に調査を実施した。日米の実務家の多くは、拒否的抑止が有効である、という認識を持っていた。その根拠としては、軍事専門家は軍事的な行動を正しく理解できる、という意見が多かった。他国の意図については、軍事専門家の多くは軍事組織の実際の行動によって相手の意図に関する認識を形成していた。しかし、現場の軍同士のシグナルの有効性を認識しながらも、誰に対してシグナルを送れば抑止が効果的であるかについては不明であるとの認識も持っていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当研究課題が承認されたのは7月であり、その時点ではすでに海外の研究機関、訪問先、研究協力者らの夏以降の予定は決定済みであった。そのために、本研究は限定的にしか実施できなかった。この初年度の遅れの影響が継続している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、これまでの調査・研究成果を踏まえて、引き続き、実際に抑止に携わる軍事組織の実務者ら(戦略・戦域レベル)、軍事力行使の決定を担う政策担当者(戦略レベル)、一般大衆の抑止に対する認識の実態調査を実施する。とくに、彼我の行動の認識が正しいものなのか、意図の伝達方法(シグナル)についての考察を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際学会等に招聘されたのに併せて海外における調査を実施した。旅費等の一部が主催者負担であったため、支出を抑えることが可能になった。 前年度までに収集した資料・データの分析を行うとともに、新たなデータ・データベース等を取得して、分析を進める。
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