研究課題/領域番号 |
15KT0138
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
菅野 学 東北大学, 理学研究科, 助教 (30598090)
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研究分担者 |
瀬高 渉 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 准教授 (60321775)
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研究期間 (年度) |
2015-07-10 – 2018-03-31
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キーワード | 遷移状態 / 結晶 / 動的機能分子 / ナノテクノロジー / テラヘルツ波 / 分子動力学計算 |
研究実績の概要 |
本研究は、気相や溶液中の小分子に限られていた従来の遷移状態研究の枠を越え、超多次元系である固体(結晶)における化学反応や分子運動の遷移状態を制御する手法を開拓する。特に、結晶性分子ジャイロスコープの高速内部回転制御を目指す。分子ジャイロスコープは外部骨格(固定子)に保護された環(回転子)を持ち、それが結合を軸として回転する。回転子の挙動を瞬時に制御できれば、液晶よりも高速に動作する光学材料としての応用が見込まれる。我々は分子設計に基づく静的制御と光照射による動的制御を組み合わせた研究を計画した。
平成27年度は、フッ素置換回転子とジシロキサンかご状骨格を持つ分子ジャイロスコープの有効回転ポテンシャル曲線を算出し、約 5 kcal/mol の障壁を有する 2 つの遷移状態が存在することを明らかにした。この障壁の値は、これまでに合成された分子ジャイロスコープの中でも特に低い。回転の有効反応座標は環が軸周りに回転するだけのものではなく、回転子と固定子が互いに相関した複雑な運動である一方、この系では分子間相関が小さい。ナノ秒動力学計算から室温での回転頻度を評価し、約 3 ns に 1 回の頻度で遷移状態を越えると予測した。
平成28年度は、光照射による回転駆動シミュレーションを行った。初期温度0 Kとしてテラヘルツ波を入射すると、フッ素置換の効果で環が光と相互作用して回り始める。構成原子数の少ない回転子が光から供給されるエネルギーの半分以上を得るが、その大部分は固定子に流れていくことが分かった。これによって分子全体の実効的な温度が上昇し、回転障壁を乗り越える。フッ素置換により発生する双極子モーメントが、光から効率良くエネルギーを獲得する上で重要な役割を果たしている。実験的に可能な電場強度(< 2 GV/m)では、数nsで連続回転に至ると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度に計画していた「内部回転の光制御シミュレーション:光から回転子へのエネルギー供給効率の評価」がおおむね達成できたため。「研究実績の概要」に記述した成果をCSJカレントレビュー(日本化学会編、化学同人、平成29年出版予定)に寄稿することができた。
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今後の研究の推進方策 |
「光駆動高速内部回転を実現する最適な分子ジャイロスコープの設計、合成、シミュレーション」および「光照射下における内部回転の実験的観測法の検討」に取り組む。回転障壁や双極子モーメントの大きさに合成の可能性などを加味して、光駆動高速内部回転の実現に最適な組み合わせの回転子・固定子を備えた分子ジャイロスコープを設計する。新規設計された分子ジャイロスコープの光制御シミュレーションを実行し、回転頻度および光からのエネルギー供給効率が向上したかを確認する。更に、環の高速回転に起因する複屈折率の変化を解明し、機能発現を予測する。実際に合成・結晶構造解析を行い、その実験データおよびシミュレーション結果を基に、光照射下でも実施可能な新しい固体の高速内部運動観測法を検討する。これまでに得られた知見を結晶全体および構成分子の構造、官能基の電子的性質、テラヘルツ光の光学変数などに関して系統的に整理し、固体(結晶)における遷移状態制御の手法を確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額である。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度請求額と合わせて次年度に計画している研究の遂行に使用する。特に、(1) 結晶性分子ジャイロスコープの光駆動内部回転シミュレーションに使用するワークステーションの購入と東北大学大型計算機の使用料、(2) これまでの研究成果を発表するための 国内および外国旅費、(3) 計算結果の解析や成果発表に利用するデスクトップPCおよびノートPCの購入、(4) 関連書籍やソフトウェアの購入、などに充てる予定である。
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