研究実績の概要 |
クリックケミストリーは今世紀に入り提唱された新しい概念であり、温和な条件下で進行する定量的な付加反応と定義される。最も代表的なクリック反応は、銅触媒を用いたアルキンとアジドの付加環化反応(CuAAC)であるが、生成物への微量銅イオンの混入が問題となっていた。そこで、金属触媒を使用しない新しいクリックケミストリーが開発されてきた。その中で、我々は電子供与性基が置換したアルキンと電子吸引性基が置換したアルケンが[2+2]付加環化後、続く開環反応を経て定量的にドナーアクセプター構造を生成する反応を見出した。電子供与性基として芳香族アミンを用いると効果的であることを見出していたが、アズレン誘導体やポルフィリン誘導体など幅広い共役電子系も利用可能であることが分かってきた。本研究では、アルケンとしてジシアノエテン誘導体の構造を様々に変化させ、置換基がアルキンとの反応性に与える影響を実験と理論両面から詳細に調査した。まず、ジメチルアニリンが置換したアルキン分子に対し、様々なgem-ジシアノエテン誘導体を加えて反応性を試験したところ、立体障害によって反応性と異性体の割合が変化することを明らかにできた。また、アルケンとして2,5-ジアルコキシ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタンを用いた場合には、選択的に一つの異性体のみが生成することも見出した。さらに、環状の歪んだアルキンとテトラシアノエチレンを反応させると、段階的な[2+2]付加環化-開鐶反応が進行し、立体障害により光学活性な生成物となることが分かった。本研究のまとめとして、関連論文を収集し、総説を執筆した。
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