研究課題/領域番号 |
15KT0143
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
北河 康隆 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (60362612)
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研究分担者 |
齋藤 徹 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 研究員 (80747494)
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研究期間 (年度) |
2015-07-10 – 2018-03-31
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キーワード | 量子化学 / スピン射影(AP)法 / ビラジカル / 遷移状態 / スピン非制限(BS)法 |
研究実績の概要 |
遷移状態のエネルギーや構造を正しく求めることは、その反応機構を考える上で最も基礎的で重要な事項である。量子化学計算はの反応経路や副生成物などの予想が計算上では可能となる。一方、触媒反応では、homogeneousな結合解離(ラジカル解離)など局在スピンが現れる遷移状態(ビラジカル遷移状態)が見られる事がある。ビラジカル解離は、様々な化学反応・生体反応で見られ、古くから研究が進められている分野の一つである。ビラジカルは極めて反応性が高く効率よく反応が進むが、故にその制御は難しい。従って、量子化学計算により、正しくビラジカル遷移状態と反応メカニズムを求めることが出来れば、理学的観点のみならず分子設計や反応設計、ひいては反応制御という観点からも大変重要な情報となりうる。しかしながら、現在世界的に使用されているbroken-symmetry法では、スピン混入誤差という致命的エラーを有し、正しい評価ができない場合がある。当グループでは世界で唯一、この誤差を除きながら、分子構造や遷移状態を求める方法を確立しており、その展開と深化が期待されている。上記理由より本申請では、『AP法に基づいた遷移状態法を深化させ、実在分子におけるビラジカル反応機構の予測・解明を定量的に可能とする』ことを目的としている。そのためには、(A)正しく遷移状態を計算すること(精度・信頼性)。(B)大きなサイズの分子を計算すること(計算コスト)。(C)様々な反応パスを探ること(探索能力)の三点を克服することに主眼を置く。 本年度は、具体的な適応する具体的な物質群を探索し、また連携研究者を新たに設け、綿密な打ち合わせ等、研究の基礎的な土台作りを行った。さらに銅2核錯体の分子構造と磁性の関係に着目し、AP法により電子状態と最適化構造を求め有効性を議論した(学会発表済み、論文投稿予定)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の通り、本年度は、具体的な適応する具体的な物質群を探索し、また連携研究者を新たに設け、綿密な打ち合わせ等、研究の基礎的な土台作りを行った。さらに銅2核錯体の分子構造と磁性の関係に着目し、AP法により電子状態と最適化構造を求め有効性を議論した。具体的には、(1)ピラゾール架橋銅2核錯体分子構造をスピン射影法により最適化して、実際に反応性や物性にどのような影響があるのかを明らかにした点、さらに(2)フラボノイド誘導体quercetin に酸素原子を二原子添加する金属酵素銅含有ジオキシゲナーゼ模倣錯体において、反応経路を明らかにしている。いずれも、スピンを考慮した計算を行わなければならず、且つその分子構造が、反応性や物性に大きく影響する系である。7月からのスタートにもかかわらず、学会発表も終え、論文投稿の準備に入っている。3年間の研究のしっかりとした土台を完成させることができ、順調なスタートを切ることができた。以上の点から、研究は概ね順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は具体的にプログラム開発を進めて行く。(1)AP法のための解析的な<S2>微分計算プログラムを開発する、(2)スピン制限(R法と組み合わせ、巨大分子のビラジカル遷移状態構造最適化法を開発するという2点に関しては、連携研究者と打ち合わせを重ねて進めている。また、(3)AP法と非調和下方歪み計算との融合に関して、着手する予定である。加えて、(4)具体的なビラジカル遷移状態に関する実験事実を調査し、具体的対象系も焦点を絞って行きたい。
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