エネルギー・環境問題の克服が世界的に求められる中、環境負荷低減、資源的に豊富な元素の利用、光エネルギーの利用、を達成した上で、社会で求められる物質を高効率に変換する触媒系を開拓することが必須である。重要な物資変換方法であるオレフィン、イミン、カルボニルの水素化反応の均一系触媒として、Rh 錯体のWilkinson 触媒、Ir 錯体のCrabtree 触媒、Ru錯体の野依触媒を代表に多数の錯体が開発されているが、いずれも貴金属錯体のため、資源的に豊富な金属への移行を目指す必要がある。本研究は、次の段階として水を水素源、かつ光エネルギー利用を視野に入れた、環境負荷低減型の水素化反応を実現するFeバイオ触媒の開発に取り組んだ。昨年度までに、鉄二核のジチオラート架橋配位子の末端にマレイミド部を導入したFe 二核錯体触媒を、強固なバレル構造内に疎水的なキャビティーを有するニトロバインディンのグルタミン96番をシステインに置換した変異体のCys残基とマレイミド基の付加反応により固定したFe二核バイオ触媒の調製をした。この第一世代のFe二核バイオ触媒から、鉄二核錯体のジチオラート架橋配位子をアザジチオラートに変換した第二世代Fe二核バイオ触媒において、水素発生活性を向上することを踏まえ、第二配位圏にプロトンシャトルとなるアミノ酸残基を適切な位置にグルタミン酸やリジンなどの残基を導入した第三世代Fe二核バイオ触媒を作製し、さらに活性向上する変異体を見出すことに成功した。また、pH 条件を変えて水素発生実験を行い、グルタミン酸がプロトンシャトルに関与していることも明らかにした。これらのバイオハイブリッド触媒のX線結晶構造解析にも成功し、Fe二核錯体部分がニトロバインディンの空孔内に共有結合的に固定化されていることも明らかにした。
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