研究課題/領域番号 |
15KT0146
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
折本 裕一 九州大学, グリーンアジア国際リーダー教育センター, 助教 (00398108)
|
研究期間 (年度) |
2015-07-10 – 2018-03-31
|
キーワード | 酵素触媒反応 / 遷移状態 / 軌道間相互作用 / 振動解析 / 反応経路解析 / 電子状態計算 / スルースペース/ボンド相互作用 / オーダーN Elongation法 |
研究実績の概要 |
生命維持に関する化学反応は酵素の特異的な触媒作用により支えられ、その複雑な酵素反応の分子論的理解は、難病や未知の伝染病等に対抗するための重要な一歩である。本研究では、特異的酵素触媒作用について「軌道相互作用が引き起こす特異な遷移状態の安定化」という視点から、遷移状態の支配因子としての‘最重要’軌道相互作用を電子論レベルで特定、解明するための量子化学手法の構築を行い、病気の原因解明や創薬に貢献可能な理論手法の確立を目指している。 平成28年度はまず、本課題で目指す「酵素特異反応の遷移状態支配因子解明法」の基盤技術となるThrough-Space/Bond(TS/TB)相互作用解析法を、遷移状態探索法(鞍点探索)、振動解析法、および反応経路解析法と結合させることで、個々の軌道相互作用と遷移状態構造/振動モード/反応経路の間の関係解析が可能となるTS/TB-Freq/IRC解析法の手法開発を進めた。本TS/TB解析法は、人為的な軌道収縮により分子内の特定の軌道間相互作用をカットし、カット前後の比較から注目している相互作用の寄与を非経験的分子軌道法レベルで定量評価する手法である。さらなる調整とテストが必要ではあるが、TS/TB法と鞍点探索法、振動解析法、IRC解析法との各結合作業が完了した。また別途、金属含有酵素の解析に向け、TS/TB法と有効内殻ポテンシャル(ECP)法との結合についても実施し、完了した。巨大系への適用のためのElongation法との結合については現在開発中である。 平成29年度は、Elongation法との結合作業と各種開発手法の応用検証を細心の注意を払いつつも効率的に進め、当初H29年度実施予定であった溶媒効果の導入、酵素の遷移状態・反応経路に寄与する相互作用の自動探索法の開発についても、なるべく早い時期での着手を目指している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、平成28年度の前半に軌道相互作用⇔遷移状態構造/振動モード/反応経路の間の関係解析が可能となるTS/TB-Freq/IRC解析法の開発を完了させる予定であったが、鞍点探索法、振動解析法、IRC解析法との結合においてTS/TB法の骨格を見直す必要性が出たため、予想以上に開発時間がかかり、当初の計画に遅れが出た。酵素反応モデル系を用いた手法検証や巨大系への適用のためのElongation法との結合については年度内に間に合わなかったが、最重要部分であるTS/TB-Freq/IRC解析法のエンジン部分が完成したこと、および金属含有酵素に対応するための有効内殻ポテンシャルECP法との結合が完了したことは今後に向けて大きいと考えている。 上記を考慮して、「やや遅れている」という自己評価を行った。
|
今後の研究の推進方策 |
H28年度に終わらなかった酵素反応モデル系を用いたTS/TB-Freq/IRC解析法の手法検証や巨大系への適用のためのElongation法との結合(ELG-TSTB-Freq解析法)について、H29年度中盤を目処に実施していく。その後、当初H29年度に予定していた、溶媒効果の導入、酵素の遷移状態・反応経路に寄与する相互作用の自動探索法について開発を進める。具体的にはまず、溶媒中での酵素反応を取り扱えるよう連続誘電体モデルPCM法をELG-TSTB-Freq解析法に導入し、溶媒効果を考慮した解析が可能となるよう開発する。次に、遷移状態を支配している軌道相互作用の自動探索法として、酵素反応の遷移状態において活性化エネルギーや振動モード等への各相互作用の寄与率を算出可能とし、酵素の特異反応において「特異性をより強める、弱める、変化させる」、「活性化エネルギーを下げる、上げる」など、反応制御・最適化に効果のあるパラメータを決定可能となるよう開発する。実際に酵素反応における支配因子相互作用の網羅探索を実施し、手法の有効性を検証する。 特に配慮する点として、研究過程で困難にぶつかった場合に、適宜、計算対象の簡単化や問題の切り分け、手法の見直しなど原点に立ち戻って再検証し、着実な前進を心掛けるとともに、研究協力者とも随時意見交換を行い、協力して問題解決にあたる。その際、基盤手法であるTS/TB解析法の定量性や、ELG法の高精度・高効率性など、手法の特長が損なわれることの無いよう十分に注意する。また、必要に応じて研究計画の見直しを行うが、本課題の目標や意義を再度確認し、優先順位を明確にしつつ着実に計画を遂行していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初、H28年度後半には、TS/TB-Freq/IRC解析法を酵素反応モデル系に適用して手法の妥当性を検証する予定であったが、エンジン部の開発に時間がかかり当該段階まで計画を進めることができなかった。研究の進捗に関連して、計算・データ解析に関する謝金、および、打ち合わせ旅費等が予定を下回った。
|
次年度使用額の使用計画 |
これらの項目の使用計画として、H29年度内の方法論開発と応用検証に適宜組み込む予定であるが、状況に応じて計画の見直しを行うことで、無駄を生じないように十分留意する。効果的に運用するよう細心の注意を払いつつ研究を進めていく。
|