研究課題/領域番号 |
15KT0150
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
鈴木 孝幸 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (40451629)
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研究期間 (年度) |
2015-07-10 – 2018-03-31
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キーワード | 肢芽 / ニワトリ / 階層 / 形態形成 |
研究実績の概要 |
本研究課題で提案したマクロからミクロへの階層を超える形態形成原理の理解へのアプローチとして昨年度は細胞集団レベルから器官全体の形態形成を理解するために、ニワトリ肢芽を用いて器官全体の変形パターンの定量的な解析を行った(Morishita et al. Develppment, 2015)。今年度は分子レベルと細胞集団レベルの間の階層の理解をつなぐために、ホモで多指症を発するウズラの機能解析を行い論文を発表した(Matsubara et al. Frontiers in Cell and Dev Biol, 2016)。この変異体は指の個性の決定に必須であるSHHシグナルがすべての細胞において完全に欠失している変異体であり、世界の中で名古屋大学のみが所有している貴重な系統である。多指症が発症する機構を発生学的に解析した結果、指が形成される前の発生段階から肢芽の前後軸方向の幅が太くなり、さらに前後軸の極性が失われた結果指の本数が野生型と比べて倍の本数になることが分かった。またこのような表現型を引き起こす分子レベルのメカニズムとして、分泌因子であるSHHがレセプターに結合後、そのすぐに下流のシグナル伝達仲介因子から、転写因子であるGLI3までの間に異常があることが明らかとなった。これまでに知られているシグナル伝達因子の遺伝子自体には異常が見つからない事から本変異体は未知のSHHのシグナル伝達構成因子が変異している可能性がされた。この変異体の発生過程における形態変化を昨年度に報告した野生型のニワトリ胚肢芽の発生過程と比べてみるとわずかな形態変化の違いが時間的に積み上がった結果引き起こされた結果であることが考えられた。今後は器官全体の形態変化を考えて行く上で、このようなゆっくりとした変形過程の積み上げで形が変化していく機構にも着目する事が重要である事が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は細胞集団レベルから器官全体の形態形成を理解するために、ニワトリ肢芽を用いて器官全体の変形パターンの定量的な解析を行い論文を発表した(Morishita et al. Develppment, 2015)。そこで次に今年度はSHH, WNT, FGFシグナルがどのように肢芽全体の形態形成に関与しているのかを解析した。WNT, FGFシグナルの阻害や、タンパク質そのものを吸着させたビーズを肢芽に作用させ、肢芽全体の形態形成に与える影響と細胞動態に与える影響も2光子顕微鏡を用いて解析を行った。SHH シグナルが肢芽全体の形態に与える影響を検討するためにSHHシグナルが発生過程の細胞すべてにおいて不活化している変異体として申請者が発見したウズラのHMM変異体を用いた。この結果、SHH相グナルは局所的に作用して肢芽全体の形を変えて行くのではなく、少しずつ形態変化を濃度依存的に誘導し、変化を蓄積していくことによりゆっくりとした形態変化を導くシステムであることが判明した。これらのゆるやかな形態変化の過程は、細胞の分裂頻度を調べたり、FACS解析により細胞周期の違いを見ても野生型と変異型での差が分からないほどわずかな差である事が分かった。野生型と変異体における形態変化の違いは、細胞集団レベルでどのように領域が変化して行くのかを調べた結果分かったものであり、従来のミクロからマクロへの階層上昇性の理解を目指す手段では検出出来ない差であった。このことからも本研究課題で提案しているまずマクロの器官全体の形態変化を定量的に解析し、その後に器官全体の中で特徴的な形態変化を引き起こす過程に着目する事が重要であるという意義を再確認させられる結果となった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の2年間の研究の中で、申請者は発生過程における器官全体の形態変化を解析するためにはまず器官全体のマクロな形態変化の過程を細胞集団レベルで理解する事が重要である事を提案して来た。昨年度に肢芽を用いて器官全体の肢芽の変形過程を定量的に解析し、報告した(Morishita et al. Develppment, 2015)。また今年度は分子レベルから細胞集団の動態の階層をつなぐ理解としてSHHシグナルが形態変化に与える影響を解析し報告した(Matsubara et al. Frontiers in Cell and Dev Biol, 2016)。本年度に行ったシグナル因子の解析は肢芽全体の形態形成過程を理解するためには必須であったが、やや要素還元的な研究内容も含んでいる印象があった。特に分子レベルから細胞集団の挙動を理解しようとすると、従来の方法やシグナルが研究対象として浮かぶためこのような多くの研究者がそうであるように分子の解析自体の研究になってしまうことが分かった。来年度は最終年度であるがやはりミクロ(分子)からマクロ(細胞集団)の変形過程を考えるのではなく、マクロな細胞集団の挙動を統一して理解するためにまず研究の視点をマクロからミクロにもう一度立ち返る必要があると考えている。そこで最終年度では、細胞集団の挙動を制御するための機構として力学的なメカニズムに着目したいと考えている。特に今年度の研究から明らかになったSHHのシグナルの作用機構はゆっくりとした肢芽全体の形態変化を誘導するものであった。このような形態変化が起こる時には従来から考えられて来たシグナル因子によるダイナミックな形態変化の過程ではなく、物理的な細胞のその場の振る舞いによる協調した器官全体の形態変化の過程が発生の本質である可能性が高いと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の実験で使用したウズラの変異体の種卵を購入する代金として500千円前後を予定していたが、ウズラの種卵の提供先から無料ですとの連絡があり、この種卵の金額分が残予算として残った次第です。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度はウズラの変異体の種卵が有料になるので残金は平成29年度の種卵の購入代金として使用する計画です。
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