平成29年度中に、マクロな肢芽の形態を制御していると考えて来た上皮細胞におけるリン酸化ミオシンの抗体染色を行った所、当初予定としていた2リン酸化ミオシンが形態形成に関与しているのではなく、1リン酸化ミオシンが上皮の形態を維持していることが明らかとなった。研究遂行上、この現象の本質を見極めることが不可欠であることから、1リン酸化ミオシンが肢芽の形態形成に与える影響を調べる追加実験を実施する必要が生じた。そこで平成30年度では1リン酸化ミオシンがどのように肢芽の形態形成に関与しているのか、ステージ間での違いとミオシンの活性を阻害したときに肢芽全体の形態形成を調べた。その結果、1リン酸化ミオシンのシグナルは、ステージを通して肢芽の上皮組織中のbasal epidermis上に強く観察されステージ間の違いは無い事が明らかとなった。興味深い事に、肢芽形成期から遠近軸方向にバイアスして伸長する肢芽伸長期にかけてもリン酸化状態に変化はなかった。このことは、肢芽全体の遠近軸に沿ったバイアスした伸長は、肢芽上皮全体が受け取る応力の量的違いではなく、力がかかる方向が異なるなど質的違いが重要である事が示唆された。そこで、次に、肢芽の上皮組織に力がかかった方向に上皮がactiveに引っ張り返すかどうかを調べるために、引っ張り試験機を用いて単離した肢芽の上皮組織のみを外力を加えて変形させたときにヤング率が変化するのかを調べた。その結果、肢芽の上皮組織を引っ張り続けた時だけヤング率が上昇する事が判明した。これらの結果は肢芽上皮組織中に持続的にかかる方向性を持った応力の異方性の違いが3次元の肢芽全体の形態形成に重要である事を強く示唆している。現在これらの結果をまとめて上皮の異方的な応力による新たな肢芽全体の形態形成メカニズムの論文を執筆中である。
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