現代の細胞では,多様な特殊化したタンパク質が複雑巧妙に働き細胞分裂が達成される.しかし,生命誕生初期の原始細胞が増殖するためには,情報分子(核酸)の複製と膜構造の複製が原始的な原理により同時に進行する必要がある.申請者らが発見した,脂質膜小胞が成長して自発的に分裂する効果(排除体積効果)は,小胞内に存在する高分子のサイズや濃度に依存して起こるため,小胞内でDNAが増幅し,より大きなDNAを内封するものが分裂・増殖し,生存に有利であったというシナリオが描ける.本研究では,DNAの等温増幅と膜の成長・分裂が協同して進行し,膜と核酸のみから構成される原始的な細胞モデルでも増殖可能であることを,実験的に示すことを目的とした. 平成29年度においては,平成28年度の後半に達成した成果(巨大DNAは低重量濃度でも排除体積効果による分裂様膜変形を起こすことを証明し,かつDNAの増幅反応を経たリポソームでも同様の分裂様変形を起こることのデモンストレーション)に関し,論文の執筆・投稿作業を行った.いくつかの雑誌への再投稿作業を経て,タンパク質により混雑環境の影響に関する追加実験も行い,最終的にACS Synthetic Biology (IF 5.382)に掲載された.また,29年度は,以前より得られていた,分子混雑環境中において巨大DNAが脂質二重膜に自発的に包みこまれるという実験結果に対して,画像解析法による定量評価を行った.研究期間を終えた現在,この研究結果について,論文執筆作業を行っている.
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