研究課題
細胞形態の変化が組織の物理性質に与える影響を計測する目的で、物理的な摂動操作と相性の良い正立型のズーム顕微鏡下での細胞形態の人為的な制御法を検討した。ケージド化合物を与えた胚の上皮組織の限局した領域にメタルハライドランプ由来の蛍光を照射し、組織レベルでの変形反応を解析した結果、Caged-ATPへの光照射による細胞内Ca2+動態の変化が共焦点レーザー顕微鏡を用いた場合と同様に誘導できること、それが頂端収縮と組織変形を誘導できることが明らかになった。また、胚性上皮組織の変形運動を単細胞レベル定量的かつ包括的に扱う目的で、遺伝子組み換え個体のスクリーニングと画像取得・解析技術の開発を進めた。膜移行型の緑色蛍光タンパク質を全身で発現する複数の遺伝子組み換え個体から得た胚を共焦点レーザー顕微鏡で評価することにより、均一かつSN比が高く細胞形態が標識される系統を選別した。加えて共焦点レーザー顕微鏡の観察条件の至適化を進め、神経管形成過程のほぼ全てを含む多次元画像データを取得した。これに開発を進める新規の画像解析アルゴリズムを適用することで細胞形態輪郭抽出の効率が向上することが確認された。加えて、異なる空間密度の細胞内Ca2+動態と組織変形効率の関係性を評価する統計学的手法を開発した。この手法を用いてカルシウムプローブを発現する胚から得た多数のタイムラプス画像データセットの評価を行ったところ、数理モデル解析により予測されたランダム且つ単細胞レベルの細胞内Ca2+動態の有利性が実際の生体内で観測されることが明らかになった。併せて数理モデル解析の定性的な結論が主要なパラメータの変動に影響を受けない安定した性質を備えることも明らかになり、開発した数理モデルの妥当性を提唱することが出来た。
2: おおむね順調に進展している
胚性上皮組織の変形運動を構成的なアプローチで扱う上で必要となる細胞形態の人為的制御法、スループットの良い細胞形態の抽出評価法、更に細胞内Ca2+動態と組織変形効率の関係性を評価する手法の開発に順調な進展が得られた。今後は個々の解析手法の更なる発展に加えて、それらの解析を同時に行う際に必要となる制御・観察系の改良と取得データ解析の統合作業を進める。また、これまで開発・解析の対象は主に野生型の性質を持つ胚に絞ってきたことから、細胞形態変化と組織の物理特性・形態の間の関連性に影響が予想される既知・未知の制御因子の検討も今後の課題としたい。
組織変形の基盤となる物理性質の変化を構成的な手法から明らかにするために、ズーム顕微鏡下に硬さ計測の装置を組み込んだ上で、細胞形態の光制御の手法を実現する。既に原子間力顕微鏡を用いて微細物理プローブによる押し込み試験を実装できる可能性を見出しているが、上手く進まない場合に備えて微細管による吸引試験についても同時に検討を進めていく。また光制御により起こると考えられる硬さの変化を安定して計測するために適したプローブの性質(ばね定数、先端形状など)の選択を進める。刺激法についてはCaged-ATPによる細胞内Ca2+動態の制御が簡便かつ安定していることが明らかになっているが、より直接的に細胞の物理性質と形態を制御する手法、具体的には青色蛍光で活性化できるSmall Rho GTPasesの活用も検討する。細胞形態の抽出評価法についてはサンプル調製と画像取得条件についてはほぼ至適化が済んだことから、今後は画像解析技術の向上と抽出された細胞形態のデータを統計的に評価する手法の発展に注力する。以上の開発手法を用いた遺伝子機能の理解については、過去の研究代表者らの解析により既に確立されている、上皮細胞の変形(細胞伸長、頂端収縮)と表皮の移動の影響をMID1/2、Shroom3、Integrin beta 1の阻害実験で検討する手法を用いる。加えてアクトミオシンや微小管といった細胞骨格の活性を阻害剤等で直接的に低下させた際の影響についても、数理モデルによるシミュレーション結果を考慮しながら実際の胚で検証する。
今年度の支出状況はほぼ計画通りであったが、昨年度の研究の遅れが影響しケージド化合物や小分子阻害剤、分子生物学的解析に用いる消耗試薬の残量に余裕が生じたため、最終的に次年度使用額が生じた。
当初の計画に加えて成果が期待できる押し込み試験や吸引試験による硬さ計測の条件検討に必要な機器や消耗品の購入に充てたい。
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