昨年度までに,酵母の両方向性kinesin-5の発現・精製と,DNA scaffoldを用いた多分子複合体の作製に成功した.複数分子複合体のテンプレートとして,SST と呼ばれるDNA ナノチューブを用いた場合と,DNA origami 法で作製した長さ約400ナノメートルのナノチューブを使用した場合の実験を行った.運動の観察はDNAテンプレートの一部に導入した蛍光色素を用い,全反射蛍光顕微鏡下で行った.kinesin-5 は2本の微小管を架橋しながら運動する性質があるため,微小管2本と,kinesin-5 自身,DNAテンプレートの4種類の蛍光プローブを同時に観察する必要がある.そのため,蛍光波長の異なる4種類の蛍光プローブを同じ1台のカメラで記録するための光学系を構築した. 運動観察の結果,どちらのテンプレートを用いた場合でも,kinesin-5の分子数に依っては運動方向が逆転するケースがあることを確認したが,再現性が低く,この点は現状では不明瞭である.引き続きこれらの運動観察と解析を続行し,分子数と運動方向の関係を明らかにしたい.並行して,運動方向性決定と方向性逆転のメカニズムを理解するために,kinesin-5 に外部負荷を掛けた時の応答を光ピンセット装置を用いて計測する実験系の構築を行った.予備実験の結果,kinesin-5 では,従来型キネシン(kinesin-1)の計測で使われるようなpN レベルの力ではなく,もっと小さな力のやり取りによって運動方向の逆転が起きている可能性が考えられた.
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