平成19年6月末にHERA加速器運転が終了した。収集した全データを総合した解析を進めた。特に、積算ルミノシティの総量は偏極電子・陽子衝突および偏極陽電子・陽子衝突のそれぞれ190pb^<-1>、182pb^<-1>となり、これは2000年以前に無偏極で得られたデータの総量で約4倍になり、HERA加速器の高輝度運転の成果である。特に電子・陽子衝突データ量は10倍以上にできた。 偏極電子での中性流及び荷電流断面積の測定を完了し、論文に投稿した。偏極陽電子での測定は暫定結果を国際会議で発表した。いずれも標準模型の予想と一致し、そこから電弱相互作用のパラメータの決定を行った。さらに精度を上げるために、もう一つの実験との共同解析をすすめ、新粒子探索や、陽子の構造関数の測定を進めた。2つの実験の結果を総合することにより、陽子の構造関数の系統誤差の見積りを大きく改善でき、これにより、陽子内部のクォーク・グルーオンの分布を高精度で求めることができた。 実験の最後に陽子のエネルギーを下げて実験を行ったが、その結果と通常のエネルギーでの衝突との比較から、陽子の縦波構造関数を測定した。これまで研究してきた陽子の内部のグルーオン分布から期待された値と無矛盾であることを確認し、陽子の構造が、素粒子の標準模型の根幹の一つである量子色力学でうまく説明できていることを示すことができた。その基本パラメータである、強い相互作用の結合常数も、様々な反応を用いて測定し、それぞれがよい精度で一致することを確認できた。 タウ粒子対に崩壊する新粒子や、W粒子を生じる崩壊等で新粒子探索を進めた。標準模型からの予想と誤差の範囲で一致し、新粒子を予言する理論に対して制限を与えることができた。
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