研究概要 |
幹細胞は、幹細胞を産み出す(自己複製する)能力をもつという点において、増殖・分化する前駆細胞とは区別される。この幹細胞の自己複製機構、または、未分化性維持機構を明らかにすることは、幹細胞の本質に関わる課題である。幹細胞は幹細胞だけで自律的にその生存が維持されているのではなく、幹細胞を取り巻くニッチによって、未分化性が維持されていると考えられる。骨髄におけるニッチ細胞は、骨芽細胞、血管内皮細胞、さらには幹細胞以外の前駆細胞を含む造血細胞からなると考えられる。我々は、平成16年度、TIE2受容体陽性の造血幹細胞が、骨内表面上に、骨芽細胞に接して存在することを見いだした。骨芽細胞からTIE2受容体の結合因子であるアンジオポエチン-1(Ang-1)が産成され、幹細胞の接着を促し、幹細胞を静止期(GO期)にとどめている(Arai et al. Cell,2004)。 それでは、幹細胞がニッチにあるというのは、いかなる意味をもつのだろうか?我々は、Ataxia telangiectasia mutated (ATM)遺伝子欠損マウスにおいて造血幹細胞の機能低下を見いだした。このマウスでは、幹細胞の自己複製能の低下が見られた。造血幹細胞において、活性酸素レベルが上昇しており、これを還元剤投与によって低下させると、幹細胞の機能が正常に復した。さらに下流のシグナルには、p16^<INK4a>, Rbなどの細胞周期制御因子が関与していることも明らかとなった。さらに、ATM遺伝子欠損マウスの骨髄造血幹細胞は、静止期になく、自己複製能の回復に伴い、静止期幹細胞が出現することを認めた(Ito et al.,Nature,2004)。今後、ニッチにある幹細胞が、酸素毒などのストレスからいかに守られているかについて考察し、幹細胞の本体について検討を進めたい。
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