生理学研究所から、東京大学医学部への実験室の移動を無事終了し、幾つかの目標について大きな進展を見た。 1.この研究課題の最大の目標である、大脳皮質錐体細胞の樹状突起スパインの可塑性を動物個体において調べる実験手法が確立した。即ち、in vivoの大脳錐体細胞をホールセルクランプして、皮質にケイジド試薬を投与し、2光子励起することによりスパイン頭部依存的なグルタミン酸感受性を測定する手技の開発に成功した。こうして、in vivoにおいて単一シナプスを刺激する手法を初めて確立した。更に、反復刺激をすることにより、スパインの長期的頭部増大を誘発することに成功している。 2.樹状突起スパインの構造を決める細胞骨格であるアクチン繊維の単一スパインでの構築を2光子光変換GFP融合アクチンを用いて、初めて明らかにした。スパインには定常的に二つのアクチン繊維のプールが分離して存在しており、その量比はスパインの大きさに依存し、大きなスパインの方が安定なプールが大きい。また、頭部増大に際しては、新たなアクチン繊維が生成され、これがスパイン内に残留することが長期頭部増大に必須であることが明らかとなった。 3.スパインの体積変化を日の単位で長期観察し、その変化には活動に依存する成分以外に、自然な変動があることが明らかになった。これは、シナプスの安定性を初めて定量したものと考えられる。このデータからスパインの体積分布や集団的挙動を説明する数理モデルを構築した。 4. 2光子顕微鏡に予定の改良を加えて、単一シナプスのみならず、細胞体レベルでの刺激が可能とした。 以上の結果については、投稿中及び報告準備中である。
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