(1)ミオシンの歩行運動の可視化 昨年度、ミオシンVの脚部にミクロンサイズの目印として微小管を結合させ、アクチン線維上を歩かせる、あるいは逆に微小管を床面に固定しアクチン線維の動きを見る、ことにより歩行運動の詳細が見え始めたことを報告した。さらに微小管を溶液中に固定してアクチンの三次元運動を許す系も開発し、詳細な解析を行った。着地した脚は、それが前脚である場合、従来の説のように能動的な足首の曲げにより前傾する。後脚は持ち上がったのち回転ブラウン運動をし、空間のあらゆる向きを経巡り、その速度は粘性で規制される。後者は、脚の付け根がほぼ完全に自由な自在継ぎ手となっていることを示す。ブラウン運動の直接可視化は初めてである。 (2)F1-ATPaseの回転機構 F1はATP一分子の分解に付き120度回転し、最初の80度はATP結合が駆動することを以前報告した。今回、超高速イメージングにより、残りの40度は燐酸解離が駆動することが分かり、さらにこの回転に伴い燐酸に対する親和性が何桁も低下することを示せた。逆回転によるATP合成の場合、燐酸に対する親和性が増して、合成に必要な燐酸を溶液中から取り込めることになる。昨年報告したADP解離のタイミング(ATP結合とほぼ同時)と合わせ、回転中にF1の3つの活性部位のどこでどんな化学変化が起きるのか、基本となる反応経路の全貌が明らかになった。さらに、ADP解離の時間経過から、回転に伴いADPに対する親和性も低下することが示唆された。すなわち、最初の80度部分は、ATP結合だけでなくADP解離によっても駆動される可能性が高い。 回転子γの固定子にもぐり込んだ先端部分を、昨年の報告以上に削除しても回転することが分かった。固定子の入口部分の変化だけでトルクを発生できるらしい。 低温顕微鏡の開発により、従来知られていなかった律速過程が見つかりつつある。
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