研究概要 |
学習に伴う記憶形成機構解明、特に記憶形成に働く遺伝子ネットワーク構築を目的として、C.elegansを用い機械的タップ刺激による学習行動解析法を確立した。この方法で多数の学習異常変異体を分離することに成功した。分離された変異体の1株(cn350)はマッピング、塩基配列を決定したところ、osm-3亜株であることが判明した。osm-3遺伝子はanterograde-directed moter蛋白質として機能するキネシン蛋白質をコードしている。キネシンは軸索輸送に必須な因子である。しかし、キネシンが学習にどのように寄与しているかについては、あらゆる生物を通じて全く検討されていない。そこで、OSM-3キネシンの学習への寄与を分子遺伝学的手法で調べた。cn350はキネシンモータードメイン78番GlyがSerに変異していた。osm-3遺伝子変異にはcn350に加え5亜種分離され変異部位も決定されている。これら6亜株は何れもNaClの存在と飢餓を組み合わせた連合学習、あるいは機械的タップ刺激による非連合学習ともに異常で、しかもその表現型が異なっていた。EPG法を用いた電気生理学的手法でacetylcholine, GABAの運動性ニューロンからの放出を調べると何れも異常で、かつその程度が異なっていた。 突然変異体分離と並行して、cDNAマイクロアレイを利用した網羅的遺伝子解析を行った。その結果、タップ刺激に伴い、第一令幼虫、成虫で250前後の遺伝子発現が変化することを見い出した。そのうち両発生段階で共通して発現変化する、およそ30遺伝子に注目した。in situ法で発現を見ると、8遺伝子が頭部中枢神経系で強い発現が観察された。これらについて、RNAi法で遺伝子をノックアウトすると3遺伝子が学習異常となった。
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