本研究課題では、MHC領域が高等な免疫系を獲得してきた経緯を明らかにするために、様々な生物種についてこの領域のゲノム配列を決定し、それらの配列よりMHC領域の形成の分子機構を明らかにすることを目的とした。本年度の成果として、1)ヒト、チンパンジー、アカゲザル間のMHCクラスI領域における塩基置換プロファイリングを行った結果、ヒトMHCハプロタイプ間における塩基置換率の平均値は0.12%、インデル含有率の平均値は0.34%であった。また、ヒト/チンパンジー間およびヒト/アカゲザル間における塩基置換率の平均値はそれぞれ1.07%、5.18%であり、インデル含有率の平均値はそれぞれ4.84%、19.36%であった。また、アノテーションに基づいた解析から、これらの値は遺伝子の機能や密度および反復配列などの影響を受けて大きく異なっていたこと、2)アカゲザルには、HLA-B/Cに相当しかつ遺伝子重複産物であると考えられる19個のMamu-Bが同定された。これらの遺伝子重複は約70kbを1ユニットとしてタンデムに重複しており、各重複ユニットの末端にはLTR配列の1種であるMLT1あるいはMLT2が存在したこと、3)位置的にHLA-Bに相当するキツネザルの直系遺伝子は明らかに偽遺伝子であった。ところが、ヒトではHLA-Bと構造的に類似し、かつ偽遺伝子であるHLA-L付近において、キツネザルでは複数個の遺伝子が確認確認されたことから、これらのHLA-B側系遺伝子がHLA-Bの機能を担っている可能性が考えられたこと、4)単孔類に属するカモノハシのBACライブラリーから分離した90個のMHCクラスI遺伝子陽性クローンは少なくとも8グループに分類されたことが挙げられる。
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