植物の光合成遺伝子システムがなぜ特有なコアプロモーター構成を持つのかを、それらのプロモーターの起源と機能の二つの側面から解析した。その結果、以下に箇条書きにした諸知見を得ることが出来、上記の疑問の解明に大きく近づいた。 1)葉緑体から核にむかうDNAフラックスの発見:植物細胞の中では(i)葉緑体ゲノムから核ゲノムにむかう定常的なDNAの流れがあり、(ii)葉緑体から核へ転入したDNA配列は断片化やシャフリングをうけた後、次第に核から排出される、という一連の動態を示す証拠が得られた。 2)DNA転移の大部分は遺伝子転移には結びつかない:葉緑体から核へ向かうDNAフラックスの流速を推定し、実際に葉緑体ゲノムから核ゲノムへ移動した遺伝子群の割合と比較した。その結果、葉緑体から核へ構造遺伝子の配列が転移しても、そのほとんどは「機能を伴った遺伝子の転移」には結びつかないことが明らかになった。 3)プロモーターの新生を実験的に再現する:シロイヌナズナの遺伝子トラップ系統を用いて、「新規プロモーターの発生過程」を実験的に再現し、解析した。その結果、「プロモーターの新生」は予想を遙かに超える高い頻度で生じることが強く示唆された。 4)新生プロモーターのモジュール構成:これまで解析した限りでは、実験的に新生させたコアプロモーターでは、プロモーターモジュールの構成比率がゲノム全体におけるモジュール相同配列の出現比率と大差なかった。 5)コアプロモーターのモジュール構成と転写調節:実際の光合成遺伝子システムのコアプロモーターは非常に偏ったモジュール構成をしている。そこで、実験的に個々の遺伝子のコアプロモーターのモジュール構成を変化させてみたところ、多くの場合、遺伝子調節が失調した。従って、光合成遺伝子群が特徴的なコアプロモーター構成をもつのはこれら遺伝子群の発現調節機構と関係している可能性が高い。 6)光合成遺伝子プロモーターの成立メカニズム:以上の知見を総合的に考慮した結果、光合成遺伝子プロモーターの成立過程に関する新しいモデルを提案した(詳細は省略)。
|