研究概要 |
近年我々は、Fe-Sクラスター(Fe-S蛋白質のコファクター)の形成に必須な二種の独立した大腸菌マシナリー(ISC、SUF)を明らかにした。生物界には、さらにNIFを加えた三種類のFe-Sクラスター合成系が分布している。これらクラスター合成系のそれぞれの特性と共通原理、多様化の進化的意義を明らかにすることを目的として、本研究では以下の解析を進めた。 1.大腸菌のiscとsufオペロンの二重欠損変異体(合成致死)が、ピロリ菌のnifSUによって嫌気条件下、相補されることを明らかにした。すなわちNIFマシナリーは、わずか2成分という最もコンパクトなFe-Sクラスター合成系として機能すること、その一方で、酸素存在下では機能することができないという特性を持つことが判明した。真核生物では唯一、赤痢アメーバに分布するNIF類似マシナリーについても、同様の相補能を確認した。これらNIFマシナリーの分布は嫌気的(微好気的)な微生物に限られており、低酸素環境への適応進化と捉えることができる。 2.大腸菌のISC並びにSUF、好熱菌Aquifex aeolicusのISC、好熱性古細菌Sulfolobus tokodaiiのSUFマシナリーの構成成分について、各々単独、または複合体として過剰に発現させ、精製と機能解析、結晶化を進めた。昨年度の大腸菌YfhJ(IscX)に続き、本年度はSufA,SufC,SufDの構造決定に成功した。また、SulfolobusのSufC+SufD複合体についても良質の結晶を得ることができた。SufDについては、構造情報に基づいて種々の変異を導入し、機能的に重要な部位を同定した。加えて、AquifexのIscUが意外にもFe-Sクラスター中間体を結合した状態で精製できることを見出し、さらに変異を導入することによって中間体の安定化を達成した。
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