遺伝子発現ネットワークの主要なステップである「転写因子→標的配列→標的遺伝子の発現」という転写制御カスケードを効率的に解析していくことが、今後のゲノム生物学における重要な課題の一つである。転写因子の標的配列を含むゲノムDNAは、多くの場合エンハンサーとしての活性を持つと考えられる。本研究は、クロマチン免疫沈降法により転写因子のin vivo結合配列を回収する手法にくわえて、トランスポゾンによる遺伝子導入法と小型魚類の利点をいかして、トランスジェニック法でありながらエンハンサー活性の可視化を効率的におこなう手法を取り入れ、制御標的配列を生体内での機能に基づいて選別するシステムを構築することにより、網羅的な転写制御カスケード同定法の開発を目指して実施した。本研究では転写因子の具体例として、HMGドメイン転写因子SOXを取り上げる。このうち、グループB1に属するSOXは、神経系と感覚器の発生に重要な役割を果たしていると考えられるが、その標的遺伝子の多くは明らかになっておらず、その同定が急がれている。 まず、ゼブラフィッシュB1グループsox遺伝子のcDNAを網羅的にクローニングし、その発現パターンの解析を行った。sox19とsox31が神経系原基のほぼ全体で発現されるとともに、グループB1の他のsox遺伝子が、神経系の様々な領域で重なりをもちながら発現されることがわかった。次に、クロマチン免疫沈降法に必要な抗体の調製をおこない、免役沈降法に使用できることを既知のターゲットを用いて確認した。さらに、エンハンサー活性を検出するためのSleeping Beautyトランスポゾンベクターの構築をおこない、エンハンサー活性の検出に使用できることを確かめた。また、トランスポゾンによる遺伝子導入法の改良をおこない、導入効率をたかめる事ができ、基本的な条件設定が終了した。
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