研究課題
本研究では、シアノバクテリアSynechocystis sp.PCC 6803を用いて光化学系IIの高温耐性を制御する因子を同定し、高温適応に関与する遺伝子を明らかにすることを目的とした。制御因子はチラコイド膜ルーメンに存在することが以前の研究により明らかになっているため、この画分に局在するタンパク質をプロテオミクスで解析し、候補となるタンパク質を絞った。プロテオーム解析の結果、高温により量的に変化したタンパク質が221個確認され、このうちMALDI-TOF質量分析機により86個のタンパク質を同定できた。その中で、著しく存在量の増えたタンパク質は、機能未知の3つのタンパク質、NADH dehydrogenaseなどであった。本研究では、まず機能未知の3つのタンパク質(Sll0072,Slr1852,Slr1106)に着目し、遺伝子破壊法と生化学的解析により光化学系IIの高温耐性との関連を調べた。Sll0072とSlr1106については遺伝子破壊株を作製することに成功した。このうちslr1106遺伝子破壊株では、光化学系IIの熱安定性が少し減少したため、Slr1106が高温耐性と関係していることが示唆された。これら3つのタンパク質を大腸菌で発現させた結果、Sll0072およびSlr1106は不溶化したが、Slr1852は可溶性画分に得られ、精製することができた。精製したSlr1852タンパク質をチラコイド膜と再構成させた結果、光化学系IIの熱安定性は変化しなかったことから、Slr1852は光化学系IIの高温耐性と関係がないことがわかった。今後、Sll0072とSlr1106についてさらに詳細に解析し、光化学系IIの高温耐性との関連を明らかにしていく予定である。また、今回のプロテオーム解析で十分解析ができなかった低分子量タンパク質についても、再度プロテオーム解析を行う。さらに、現在進行中のマイクロアレイ解析とデータを照合して、高温適応に関与する遺伝子とそのネットワークを明らかにしていく予定である。
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