研究概要 |
コアプロモーター構造を認識する基本転写因子TFIIDは、転写調節因子から受け取った信号を転写量の増減へと変換する上で中心的な役割を果たす。我々はTAF1のTBP機能阻害領域TANDがTFIIDによる転写活性化の分子スイッチとして機能する可能性を示すとともに、コアプロモーターの認識能に異常をきたすtaf1点変異体を複数単離し(N568Δ,T657K)、その解析を進めてきた。TFIIDを含む普遍的転写因子間の機能的ネットワークの実体を明らかにしていくためには、それぞれの標的遺伝子を網羅的に単離するというゲノム生物学的手法が極めて有効である。 昨年度までに、DNAチップにより同定したTAND標的遺伝子の一つであるHIS4について詳しい解析を行い、制限温度下における転写量減少の原因は、転写調節因子BAS1の有する複数種類の転写活性化ドメイン(AD)のうち、C端側に存在するAD(以下AD^*と略する)からのシグナルが特異的に阻害されるためであることを明らかにした。今年度はこの系についてさらに解析を進め、AD^*による転写活性化にはTANDのみならずBAS2との直接的な相互作用も重要であることを明らかにした。また興味深いことに、コアクチベーター能を有するMediator複合体の構成成分の一つであるMED9の機能は、BAS1のN末端側ADによる転写活性化に必要であったが、AD^*による転写活性化には不要であった。さらにTANDΔ med9Δ二重変異株を用いた解析から、両因子は酵母の生育ならびにpolyA+ mRNAの転写において重複した機能を有することが示された。またChIP on chip法を用いてTAF1タンパク質のプロモーターローディングをゲノムワイドに解析したところ、従来考えられていたモデルとは異なり、TFIIDがほぼ全てのクラスII系プロモーターに結合していることが示唆された。
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