枯草菌のホメオスタシスに関与するアルカリカチオン輸送系の研究は、全ゲノムが明らかになったことがきっかけとなり解明が進んでいる。枯草菌では、Na^+またはK^+を細胞内のpH調節、物質輸送の共役イオン、膨圧の維持などに利用する。枯草菌のホメオスタシスに関わるアルカリカチオン輸送系タンパク質の生理的機能を解明し、その制御機構を明らかにすることは、ポストゲノム研究における基軸微生物である枯草菌細胞の環境適応戦略機構の体系的な理解に貢献することが期待された。データベースを調べると枯草菌には、アルカリカチオン輸送系に関与することが推定される機能未同定タンパク質が複数存在する。本研究では、アルカリカチオン輸送系に関与する機能未同定タンパク質の機能解明から関連する他のタンパク質との発現制御や環境適応戦略としての相互関係についての解明を行い、枯草菌におけるアルカリカチオンの循環機構を体系的に解明することを目的としている。平成16年度は、各候補遺伝子の多重欠損株や各種ストレス環境での各候補遺伝子のpMutin破壊株を用い、各遺伝子の発現パターンの変化を複数の実験方法を用いて詳しく調べた。生理機能解明を始めている機能未同定遺伝子のうち以下の知見を得た。(1)YvgPが、Na^+、Li^+、K^+、Rb^+を基質とするH^+とのアンチポーター活性を持つこと。YvgPが常に発現していること。(2)YjbQは、低K^+環境ではK^+の取り込みに、高K^+環境ではK^+の排出に関与すること。(3)YfkEは、Ca^<2+>/H^+アンチポーターとして機能し、SigBとSigG依存であること。おそらく、YfkEの生理的役割は、細胞内のCa^<2+>ホメオスタシスにかかわることがわかってきた。(4)枯草菌の鞭毛モーター固定子としてNa^+チャンネルとして働くMotPSを同定し、枯草菌でもH^+駆動力以外にNa^+駆動力で鞭毛を回転させることを明らかにした。
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