アデノシン受容体(AR)は多くの哺乳動物中枢ニューロンに発現し、覚醒レベルや認知課題・学習の効率を調整する重要なGタンパク共役型受容体である。最近、ARが代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)と複合体化し、中枢ニューロンのmGluRシグナリングを修飾する可能性が示唆された。本研究では培養マウス小脳プルキンエ細胞を用いてこの可能性を検討した。mGluR1シグナリングの指標として、mGluR1アゴニストDHPGの急速投与によて活性化される内向き電流をperforated-patch電位固定法により測定した。1型AR (A1R)選択的アゴニストR-PIAおよびCCPAは内向き電流の振幅を減少させた。R-PIAによる内向き電流振幅減少はGi/oタンパク阻害剤百日咳毒素で事前処理したプルキンエ細胞でも観察された。一方、百日咳毒素処理はA1R-Gi/oタンパク・シグナル系を通じて活性化される内向き整流性カリウム電流を完全に遮断した。これらの結果はGi/oタンパクがA1Rに共役しているものの、A1R-mGluR1相互作用には関与していないことを示している。Gsタンパク・シグナル系活性化剤フォルスコリンは内向き電流の振幅を減少させなかった。またR-PIAの急速投与ではGqタンパクを介して内向き電流を活性化させることができなかった。これらの結果はGsおよびGqタンパクが小脳プルキンエ細胞のA1Rに共役しておらず、A1R-mGluR1相互作用に関与していないことを示している。さらにR-PIAは長期抑圧などシナプス可塑性の誘導シグナルであるmGluR1介在性細胞内カルシウムストア放出を減少させた。以上の結果はA1Rが主要なGタンパクに依存しない新しい経路を通じて中枢ニューロンmGluR1シグナリングを抑制的に修飾し、運動学習の素過程である小脳シナプス可塑性に影響を与えることを示唆している。
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