我々は発生期大脳皮質の脳室帯に発現する新規分子FILIPを同定し、FILIPがFilamin Aと結合し、Filamin Aの分解を促進することにより、脳室帯からの細胞移動の開始を負に制御していることを明らかとしてきた。本年は以下の3点について実験を進めた。 (1)FILIPの機能をin vivoで遺伝子ノックダウン法を用いて明らかとする。 FILIPの遺伝子をRNAi法を用いて、急性ノックダウンしその変化を観察した。ノックダウンした細胞は、フィラミンの発現量が総体として増加しており、細胞形態も紡錘形(より極性の明確な形)を取った。このデータはJournal of Neuroscience誌に発表した。 (2)FILIPの機能をin vivoで遺伝子ノックアウトマウスを用いて明らかとする。 FILIPのノックアウトマウスを作成し、その表現形を昨年に引き続き検討した。大脳皮質の特に表面に近い層の細胞配置の乱れを観察した。更に、胎生期の特定の時期で、BrdUの取り込み低下、すなわち細胞増殖の低下を観察した。この意義とその原因となる分子カスケードを引き続き検討している。 (3)脳室帯より細胞が方向性をもって移動を開始する細胞内機構を明らかとする。 細胞が移動能を取り戻すには、フィラミンの発現量に加え、その細胞内局在が重要な役割を担うことを見いだした。併せて、その活性調節機構も検討した。いまだ予備実験の段階であるが、フィラミンの細胞内局在を変化させ、その活性調節を行っているシステムを同定した。今後、早急にその詳細を検討する予定である。
|