新規bHLH因子Heslikeは転写抑制因子Hes1とbHLHドメインにおいて高い相同性をもつ。しかし、Hesファミリーに共通にみられる塩基性領域のプロリン残基やC末端の転写抑制配列WRPWはHeslikeにはなく、HeslikeはHes1とは異なる活性をもつことが示唆された。Heslikeの発現はマウス胎生9.5日目に中脳腹側部で始まり、徐々に背側に広がった。また、間脳腹側部や終脳腹側部にも発現がみられたが、後脳や脊髄では発現していなかった。Heslikeの発現は脳室周囲層の神経前駆細胞に限局しており、ニューロンにはみられなかった。中脳の神経前駆細胞の多くは初めMash1を発現し、その後Heslikeを発現した。興味あることに、Mash1のみを発現する細胞からはGABA産生ニューロンはできなかったが、HeslikeとMash1を共発現してからGABA産生ニューロンが形成された。このことから、HeslikeはMash1と協調してGABA産生ニューロンへの分化を促進することが強く示唆された。そこで、Heslikeを異所性に発現するトランスジェニックマウスを作製し、GABA産生ニューロン形成におけるHeslikeの活性をしらべた。Mash1発現細胞に異所性にHeslikeを発現させると異所性のGABA産生ニューロンができたが、Mash1を発現していない細胞にHeslikeを発現させてもそのようなニューロンは形成されなかった。次に、Mash1ノックアウトマウスの中脳をしらべたところ、Heslikeの発現があるにもかかわらず、GABA産生ニューロンはほとんど欠損していた。以上の結果から、HeslikeはMash1と協調してGABA産生ニューロンの分化を決定すると結論付けられた。
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