研究概要 |
ポリグルタミン(PolyQ)病は種々の脊髄小脳変性症、ハンチントン病などを含む一群の難治性神経変性疾患の総称で、異常伸長PolyQ鎖がβシートへの病的コンフォメーション変移を獲得し、難溶性凝集体の形成あるいは病的な蛋白質間相互作用などにより神経変性を引き起こすと考えられている。我々はこれまでに異常伸長PolyQ鎖選択的に結合するペプチドQBP1がin vitroでβシートへのコンフォメーション変移・アミロイド線維様凝集体形成を阻害し、培養細胞およびショウジョウバエモデルにおいて異常伸長PolyQ蛋白質の封入体形成・神経変性を抑制することを明らかにしてきた。 本研究では(1)QBP1に膜透過性ペプチド(PTD)を付加してたPTD-QBP1投与によるPolyQ病モデル動物の分子治療を行った。その結果、PTD-QBP1投与によりPolyQ病モデルショウジョウバエの寿命短縮は有意に改善したが、PolyQ病モデルマウス腹腔内へのPTD-QBP1長期投与では運動機能の明らかな改善は認めなかった。(2)細胞毒性を発揮する異常伸長PolyQ蛋白質構造異性体を特定するために培養細胞へのマイクロインジェクション実験を行なったところ、アミロイド線維様凝集体のみならずβシート変移した可溶性中間体も細胞毒性を発揮することを明らかにするした。さらに(3)PolyQ病の治療を目指したもう一つのアプローチとして、QBP1と同様のPolyQ凝集阻害活性を持つ低分子化合物のハイスループットスクリーニングを行なった。既に大規模な低分子化合物ライブラリー(24,000個)のスクリーニングを終了し、新規のPolyQ凝集阻害化合物66種類を見い出した。そのうち12種類の化合物は非常に強力なPolyQ凝集阻害活性を示した。 以上の結果から、異常伸長PolyQ蛋白質のβシートへのコンフォメーション変移がPolyQ病の治療標的となると考えられた。そしてPTD-QBP1のPolyQ病モデル動物に対する治療効果が一部明らかになったことから、新しい分子治療薬となる可能性を示した。また、薬物治療確立を目指して新規のPolyQ凝集阻害化合物を同定しており、これらはPolyQ病治療薬のシード化合物として期待される。
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