本研究では、大脳皮質一次視覚野(V1)における水平方向の位置による情報処理の機能分化、特に方位選択性コラム-ピンホイール構造と形の情報処理の関係を追求した。麻酔不動化したニホンザルのV1方位選択性コラムを内因性信号光学計測法により可視化後、方位選択性コラム-ピンホイール構造中心(PWC)から電気生理学的手法を用いて単一神経細胞スパイク発火を細胞外計測した。その結果、PWC近傍から、双曲線格子などの複雑な視覚パターンに選択的に反応する細胞を見出した。この結果は、PWC近傍細胞が他の領域の細胞とは異なり、複雑な形の視覚情報処理を行っている可能性を示唆している(先端脳・夏の半会議で発表)。つまり、PWC近傍細胞は、周囲に存在する様々な方位に選択性をもつ細胞からの入力を受けることで、複雑な形に対する反応を獲得すると考えられる。このような入力を受け取るためには、樹状突起をPWCへと伸張させる必要がある。そこで、細胞の樹状突起形態を細胞内色素注入により解析した結果、PWCへと突起を伸張させる傾向があった。この結果はPWC近傍細胞が様々な方位に選択的に反応する細胞から入力を受け取ることで複雑な形に対する反応を獲得するとするモデルと一致する。さらに、計算機上に、生理学的、解剖学的知見に基づいた一次視覚野モデルを構築し、複雑な形に対する選択性が形成されるメカニズムを検討した。その結果、皮質内水平結合の範囲に依存して、複雑図形に対する反応が出現することが明らかになった。
|