研究概要 |
ニーマン・ピック病C型(NPC)は小脳失調が前景に立つ中枢神経障害を主徴とする常染色体劣性遺伝病であり、生化学的にはLDL由来コレステロールのエンドゾームでの蓄積を特徴とする.本研究では、NPC細胞での遺伝子発現パターンからその生化学的機序を解析した.cDNA microarrayの結果、NPC細胞ではMxA、2'-5' oligoadenylate synthetaseなどISRE (interferon stimualted response element)により誘導される一群の遺伝子の発現が亢進している事が判明した.さらにヒトNPC細胞において、STAT1-STAT5のレベルの増加が見られ、同様にNPC1欠損CHO細胞においても、STAT1,STAT3-STAT6の増加が認められた.NPC1欠損マウスの肝臓、脳の抽出物においても同様の増加が認められ、小脳Purkinje細胞や浸潤するグリア細胞でSTAT-3の抗原性が増加していた.NPC細胞の培養上精中にはIL-6/IL-8が正常細胞の1000倍以上の高濃度で存在しており、正常細胞では検出できないIFN-betaが存在した.NPC1欠損マウスは生後12週以内に死亡し、その脳では脂質蓄積、神経変性に加えて顕著なアストログリオーシスが生じる.NPCの病態における上記サイトカインの役割を明らかにする目的でIL-6/NPC1ダブルノックアウトマウスを作製した.ダブルノックアウトマウスでは脳抽出物中のSTATのレベルが低下し、アストロサイトの増殖が明らかに抑制され、寿命が約15%長くなった.以上の結果から、NPC細胞は炎症性サイトカインを恒常的に産生しており、この結果としてSTATシグナル伝達系が活性化されることがわかった.サイトカイン産生およびSTATの増加はNPC脳でのグリア細胞の増殖及び神経変性に関与すると考えられる.
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