アルツハイマー型老人性痴呆症は記憶を担う神経細胞が通常の老化より、より早く、より多く、細胞死により欠落するために発症する記憶障害である。現在は、Aβ、プレセニリン、異常リン酸化タウなどがアルツハイマー病の発症や進行に関与していることが示され、それらが研究の中心となっている。しかし、それらと神経細胞死との関連については未だに判っていない。Cdk5はタウキナーゼとしてアルツハイマー病への関与が示唆されてきたが、最近ではCdk5の活性化サブユニットp35のカルパイン依存的な限定分解による異常活性化が神経細胞死との関連で関心を集めている。一方、前頭側頭葉型痴呆症であるFTDP-17はタウの変異が原因であり、異常にリン酸化されたタウが脳内に凝集することが知られている。しかし、変異とリン酸化の関連も判っていない。本研究では、Cdk5によるFTDP-17型変異タウのリン酸化をin vitroとin vivoで検討しするとともに、p25/Cdk5が細胞死を引き起こす仕組みを詳細に解析した。Cdk5/p35、Cdk5/p25、Cdk5/p39の各種Cdk5を精製し、FTDP-17タウをリン酸化したところ、in vitroでは変異タウはリン酸化され難いことが判った。しかし、微小管に結合させると、リン酸化は回復し、野生型以上のリン酸化が見られた.リン酸化部位にはついては変化が見られず、変異による構造変化がリン酸化の度合いに影響を及ぼしているようであった。また、Cdk5の神経細胞については、小胞体ストレスを与えると、p35がp25へと限定分解され、細胞死の促進に関与することが示された。
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