昨年までに、我々は、大脳皮質神経細胞の多くは、スライス培養下において、脳室帯から移動開始直後に多極性移動細胞に変化し、その後再度ロコモーション細胞に変化してから皮質板に入ることを見いだした。そこで本年度は、実際にin vivoにおいて脳表面に到達する神経細胞のうち、脳室下帯・中間帯の多極性細胞に由来するものと、脳室帯からロコモーションで直接脳表面にまで到達(=教科書的「常識」)する細胞が各々どの程度いるのかを定量的に明らかにするとともに、このダイナミックな多極性移動を制御する分子を同定することを目指して解析を行った。まず、子宮内電気穿孔法により、胎生(E)14日の脳室帯にGFP発現ベクターを導入した。その後、12時間(h)後から、3h(<S期=4h)毎にBrdUを8回(導入後33hまで。BrdU投与21h)または13回(48hまで。BrdU投与36h)投与して細胞周期を回っている細胞全てをBrdUラベルした。33h後では、GFP陽性細胞は多極性細胞として脳室下帯に蓄積し、それらはBrdU陰性であるという結果を得た。そこで次に48h脳について、皮質板内を移動中のGFP陽性ロコモーション細胞のBrdU陽性率を調べたところ、その9割以上がBrdU陰性であることがわかった。すなわち、それらは12hまでに最終S期を通過しているはずであり、33h時点で多極性細胞として脳室下帯にあった細胞から生じたと結論できた。すなわち、in vivoにおいても、確かに皮質板神経細胞の多くは多極性細胞に由来することが示された。また、多極性移動細胞は、周囲の細胞外シグナルを探索していると推定される挙動を示すため、GFPを導入後、脳室下帯・中間帯にGFP陽性多極性細胞が濃縮している時期に、脳室下帯・中間帯を切り出して、RNAを調整し、シグナルシークエンストラップ法を行って、多極性細胞に発現する膜貫通蛋白質を検索し、多くの候補分子を得た。
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