研究概要 |
本研究では、ドーパミン神経系が司る機能の一つである摂食行動に着目し、調節中枢の探索と分子機構の解明を目的として、ドーパミン受容体コンディショナル発現マウスの作成と解析を行った。ドーパミン神経系は摂食行動・運動機能の調節、神経・精神疾患の病態に深く関わり、ドーパミン受容体はD1型受容体とD2型受容体に大別される。D1型受容体とD2型受容体は正反対の情報伝達の性質を持つが、多くの場面で協働する。我々は、D1受容体(D1R)とD2受容体(D2R)の二重欠損マウスを作成すると生後8日目頃から哺乳量が低下し、摂食もみられず成熟前に死亡することを見いだした。摂食開始にはD1R及びD2Rを介する情報伝達の両方が必要であることを示している。そこでテトラサイクリン発現調節系を利用してコンディショナルD1R発現マウスをD1R/D2R二重欠損の遺伝背景のもとで作成した。2種類のトランスジェニックマウス、すなわち(a)D1Rプロモーターの制御でテトラサイクリントランスアクチベーターを発現するマウス、及び(b)テトラサイクリンオペレーターの制御でD1Rを発現するマウスを多数系統作成し、(a)マウス系統と(b)マウス系統の各組合せをD1R/D2R二重欠損の遺伝背景となるように掛合せた中から、D1R/D2R二重欠損の摂食異常と致死性をレスキューできる系統を複数作成できた。さらに、テトラサイクリン系薬剤,ドキシサイクリン(Dox)の投与によりD1R遺伝子発現が抑制されることが確認され、コンディショナルD1R遺伝子発現マウスの作成に成功した。今後、特定の時期にDoxを投与してドーパミン情報伝達を遮断し、摂食行動の変化を観察する。そして観察される摂食異常とD1R発現部位から摂食調節の中枢を探索し、その形態的特徴および情報伝達機能変化を明らかにする。
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