本研究では、中枢神経の損傷後のリハビリテーション(訓練)による機能再建とそれに伴う脳の再組織化を、システム脳科学観点から、その物質的過程も含めて統合的に理解することを目的とした。我々は、サルにおいて皮質脊髄路を頚髄C5髄節で切断し、皮質脊髄路から運動ニューロンへの直接投射を遮断した後、毎日訓練を施すことによって10-25日の経過で手指を別々に動かす(relatively)independent finger movementとprecision gripの巧緻性が回復することを見出した。そこでこのような機能代償過程において大脳を含む上位中枢がどのような役割を果たしているかを明らかにするため、機能代償過程における脳賦活をPET(positron emission tomography)を用いて解析した。すると、損傷の1ヵ月後には両側の一次運動野、体性感覚野及び反対側の補足運動野及び被殻、小脳に活動の上昇が見られた。そして3ヵ月後には両側の一次運動野と運動前野に活動の上昇が残存した。そこでこれらの活動上昇部位が実際に機能代償過程に寄与しているかどうかを明らかにするために1ヵ月後に両側の一次運動野及び運動前野にそれぞれmuscimolを注入し、効果を調べた。すると切断前には何ら効果が見られなかった量の注入により、同側の一次運動野や両側の運動前野への注入によって回復してきた手指の運動の巧緻性が失われることが観察された。以上の結果からこれらの領域が損傷後の機能代償に関係していることが明らかになった。
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