我々は運動神経をモデル系とし、その軸索伸長・経路選択・標的認識機構を、こうした過程に関与しうる因子を探索し解析することから明らかにしようとしている。16年度は、LMCm運動ニューロンに選択的に発現し、これまでにその軸索ガイド因子としての基本的な性質を明らかにしたFY29について、その作用の分子機構を探るべく解析を加えた。FY29は複数のIgドメインとMAMドメインをもつGPI結合型の細胞外タンパクであるが、欠失変異体を作製し解析した結果、MAMドメインを介して軸索上のco-receptorと、また、Igドメインを含むN末側の領域を介してligandと結合するものと考えられた。さらに、N末側4つのIgドメインはligandとの結合に必要であり、これらを欠失させると、軸索上のco-receptorとの結合が顕著に増強されることを明らかにした。こうしたことから、この因子のIgドメインを含むN末側の領域がligandと結合することにより、そのMAMドメインとco-receptorとの結合が増強されることでシグナルの伝達が行われるものと推測された。これらco-receptorとligandの同定が今後の課題である。また、未だ不明な点の多い運動神経の神経管からの遊出機構を探る目的で、運動神経の誕生直後から運動神経に特異的に発現する因子群の単離を試みた。その結果、いくつかの候補因子を単離したが、そのうちの一つは運動神経に高度に特異的に、しかもその誕生時に一過的に発現するという興味深い発現パターンを示した。解析を進めたところ、この因子は進化上高度に保存された細胞質性因子をコードしていることが明らかになった。培養細胞において大過剰に発現させると、その形態と運動性に著しい変化をもたらすことから、細胞骨格系の制御を通じて、運動神経の軸索伸長時において重要な役割を果たしていることが推察された。
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