1)神経回路の発達は、生後の臨界期と呼ばれる時期に著しく、この時期の外的刺激によって引き起こされた神経活動に強く依存している。我々は、皮質神経の興奮性シナプスの発達(サイレントシナプスから活性型のシナプスへの変換)が臨界期における神経活動とBDNFによって相乗的に促進されることを見出した。その分子機構として、シナプスのポスト側に存在するBDNF受容体、およびNMDA受容体の活性化による細胞内カルシウム濃度の上昇の結果、グルタミン酸受容体のうちAMPA型受容体が、シナプス部位に移行あるいは安定化されること、が示唆された。2)一方、皮質抑制性ニューロンの機能発達もBDNFに依存していることがBDNFノックアウトマウスを用いた解析から明らかとなった。即ち、皮質4層には視床ニューロンから入力をうける抑制性ニューロンとしてLTS細胞とFS細胞が存在し、それぞれ、カルシウム結合タンパク質であるカルビンジン(CB)、パルブアルブミン(PV)を発現している。BDNFノックアウトマウスでは、FS細胞の機能分化およびPVの発現が顕著に抑制されていた。BDNFは抑制性ニューロンには発現していないため、興奮性細胞とのシナプス結合を介して、抑制性細胞の発達を制御しているものと思われる。3)BDNF受容体のうち、細胞内のチロシンキナーゼを欠いたT1受容体がアストログリアに唯一のBDNF受容体として発現しているが、我々は、この受容体とRhoGTPaseの抑制因子であるRhoGDI1が選択的に結合していることを明らかにした。この受容体にBDNFが結合すると、GDI1は受容体から遊離し、細胞内に移行するが、これにともない細胞骨格が変化し、細胞は扁平に形を変える。この知見は3DNFがグリア細胞の形態制御を介して、シナプス機能を制御する可能性を示唆している。
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