研究概要 |
電子カルテが導入された病院では,病院の医療系職員が以前よりも容易にアクセスできる潜在的可能性があり,その結果として患者情報が知ってしまう人の数が増えることが危惧される.これは情報アクセス権限を与えられた守秘義務のある職員による情報アクセスであり,他者への情報漏洩もない場合には法的には問題ない.しかし,紙のカルテ時代よりも広い範囲の職員に診療情報がアクセスされるという意味で潜在的な問題を含んでおり,我々はここではこのように医療機関内で情報を入手する人が意図せず増えてしまうことを「情報浸透」とよび,情報漏洩とは区別して取り扱う.我々は,今後の医療情報システムは情報浸潤を制御できる必要があると考え,その視点で情報システムのあり方,アクセス管理のあり方,守秘義務の規定のあり方を検討している.本研究では,昨年の予備調査で入院経験患者の71%は12人以上の看護師,同患者の31%は12人以上の医師にそれぞれ情報アクセスされていることが判明した.なかには50人以上の医師にアクセスされている患者もあったことが判明した。今年度の本研究では、東大病院の情報システムのアクセスログ記録機能を改造し、入院患者の入院期間中のアクセスをすべて記録するようにし、このアクセスログを解析した。解析の結果、1日あたりの1入院患者にアクセスする異なる医療スタッフの数が5%以下の頻度となるのは、指導医によるアクセスが10人以上、研修医で5人以上、看護師で10人以上の場合であった。また異なる診療科の所属者がアクセスする頻度は1日あたりアクセス診療科数が5を超えるケースがまれにあるだけであった。このことから、これらの条件を満たす場合になんらかのチェック機構を設ける事が妥当である。一方で今回の調査から、2〜5診療科でのグループ診療が行なわれ電子化された診療情報が医療スタッフ間で共用されている実態も明確になった。
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