研究課題
タンパク質の構造と機能の解明のための理論的アプローチでは、分子動力学(molecular dynamics ; MD)計算に期待が集まるが、莫大な計算量のため、現時点では、計算環境に恵まれた一部の科学者がチャレンジしているに過ぎない。本研究は、広域的なMD計算グリッドのプロトタイプの制作を通して、必要な基盤技術を整備し、一般のタンパク質科学者へMD計算資源を提供するための仕組みを構築することを目的とし、実際にそれを達成した。MD計算最大の難点は二体相互作用求値にあるが、本研究では、それに、専用計算ボードと高速アルゴリズムの併用によるMD専用クラスタを用い、その計算パワーを伝達するためのMDグリッドシステムの設計とGridRPC方式(Ninf-G)による実装を行った。この方式は、数十Mbps程度のネットワーク性能であっても、ユーザ側では一桁以上の実行時間短縮が見込めた。反面、MD専用クラスタの性能がネットワーク性能に比べ強大であればあるほど、データ通信待機のためにMD専用クラスタに遊休時間を生じる。このようなシステムの利用率の問題を改善するため、サービスを多重化すること、すなわち、同時に複数のMD計算要求に対応することとした。そのためには、MD計算クラスタを構成するノードの運用を統一的に管理する機構が必要となる。本年度は、専用計算ボード管理がGlobus資源管理機構の一部として機能するような階層的グリッド資源管理機構を構築し、その上で、サービス多重化により、サービスの質(遠隔地ユーザに伝達される計算パワー)を維持したまま、利用率を向上することが可能であることを、実証実験により確認した。これまでの一連の研究により、効果的なMD計算グリッドの実現の一例を示すことができたと考えられる。
すべて 2006
すべて 雑誌論文 (1件)
PROTEINS : Structure, Function, and Bioinformatics (掲載決定)